いいねをする人を断罪する彼女の末路

1/1
前へ
/10ページ
次へ

いいねをする人を断罪する彼女の末路

会社の同期であり友人の彼女は、やや扱いにくいところがある。 男性不信、いや男性蔑視的というか。 「これだから男は」が口癖だし、男性がすこしでも口を滑らせれば「この女性者別主義者!」と激怒。 この点以外は気が合ったので、あまり地雷を踏まないよう、つきあっていたのだが・・・。 わたしには応援する男アイドルがいて、暇さえあれば、彼のツイッターを確認。 三十分おきくらい投稿するに、一日の呟きの量は膨大。 なので、仕事がある日は、いちいち読んでいられず、とにかく「いいね」ボタンを押してスクロール。 休憩時間、なんとか新しい投稿すべてに「いいね」をして仕事にもどったところ。 別の部署にいる彼女が、わたしのデスクまでやってきて。 仕事の用かと思いきや「あんた、なに、アイドルの女性差別発言にいいねしているのよ!」と金切声を。 「アイドル好きは秘密にしていたのに!」とぎょっとしつつ、内容を知らずボタンを押したことを説明。 が、「いいねをしたのは当てつけでしょ!」と被害妄想まっしぐら。 「女性を擁護するわたしを、内心『哀れなヒステリー女』と嘲笑っていたのね! あんたみたいな女の敵の女なんか、もう二度と近づかないでちょうだい!」 絶交宣言をして彼女が去っていくと、まわりは呆れながらも「友人との喧嘩はよそでやれ」とわたしを責めることはなく。 というのも、彼女の過激な言動は今にはじまったことではなく、周知だったから。 わたし以外に被害にあった人は多く、この一件でさらに迷惑をこうむることに。 なんと、彼女はネットの検閲まではじめたらしい。 彼女と縁を切ってから「ありゃ、ネットストーカーだ」と怯える人が続出。 「いいね」を押すのにはじまり、すこしでも女性差別につながる行為を、ネットですれば、すぐに彼女は跳んできて、相手を糾弾するのだとか。 ついには各部署の業務をきたすまでになり、でも、会社は注意したり、クビにすることはできず。 「こんな不当なしうちは女性差別だ!」とさらに騒ぎたて、面倒になるのは目に見ているので。 彼女の噂を聞くにつれ、引き金を引いたのが自分のように思えて、ため息。 「おかげで、いいね押せなくなったし」と休憩室でスマホを見ていたのが、ふと顔をあげたところ。 窓越しに、頭を逆さにした彼女と目があった。 次の瞬間、視界から消えて、下から車のブレーキ音や人の悲鳴などの騒音が聞こえて。 ネットパトロールしまくって怒り狂い、正気を失くした彼女は屋上から跳びおりたらしい。 そう、ひそひそと囁く会社の人の顔には安堵の色が。 それを見て、さすがには彼女を哀れんだものだが、あの一瞬を思い起こすに寒気が。 彼女は落下するというより「いいね」の形をした巨大な手、その親指に押されているように見えたのだ。 そのまま地面に押しつぶされたのだろうか。 幻覚だろうとは思うものを、笑い過ごせずに、わたしはアカウントを消したのだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加