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口うるさい足の腫れもの
もう秋というに蚊に刺されて、太ももが赤く膨れあがった。
痒くてしかたなく、爪を立てて引っかいていたら、薄皮が破れて出血するとともに剥きだしになったのは、いかつい、おっさんの顔。
自己紹介したことには、つい先日、死んだ泥棒という。
死ぬ直前に蚊に刺されたから血が付着した口器を通して、俺の腫れ物にのりうつったのではないか、とのこと。
人の太ももに顏を出現させただけでも、いい迷惑なものを、さらに泥棒は頼みごとを。
「俺が死んだのは、盗んだ金をめぐって相棒と仲間割れをしたからだ。
あいつは俺の胸を刺し、俺もあいつの腹を刺した。
相討ちで二人とも死んだならいいが、あいつは生きているかも」
それを確認したいから殺人現場に行って見せてほしいと。
もし、相討ちなら、二つの死体があるはずだからと。
一応、ネットで調べたところ、泥棒のいう隠れ家付近で変死体が見つかったとのニュースはなし。
そう伝えたら「隠した金をやるから!」とせがまれたが、もちろん、犯罪に関わりたくはない。
とはいえ「もし確認してくれたら足から消えるから!」と条件をだされては飲むしかなく。
だって、いいかえれば、確認しにいくまで足に居すわりつづけるぞと脅しているようなものだったし。
果たして隠れ家に赴くと、死体はなく、血の跡だけ。
屈みこんで足のおっさんに現場を見せていると、背後に足音が。
とっさに体をかたむけた直後、鉄パイプが頬をかすめて床を叩きつけて。
そのまま勢いあまって、倒れた男が相棒だろう。
すぐに逃げようとしたものを、そのまえに「よくも殺してくれたな!」とおっさんが、かってに足を動かし、男の頭を蹴りつけた。
ぎょっとする間もなく、おっさんの顔がとりついた足だけでなく、全身が制御不能に。
どうやら、体をのっとられたらしく「や、やめろ・・・!やめろおおお!」と泣き叫ぶのにかまわず、おっさんは高笑いをして、男を蹴りつづけたもので。
「って、容疑者が証言しているんです」と呆れたように部下が報告をした。
「薬をやっているか、心の病じゃないのか?」と聞けば「うーん」と首をひねる。
「まあ一応、証言をもとに似顔絵をつくってみました」
それを見せられて息を飲んだ。
若い部下は知らないだろうが、かつて俺の上司だった人だから。
定年まえに退職をし、去りぎわ口にした冗談が、そりゃあ思いだされてやまず。
「泥棒を捕まえつづけて、手口を知りつくしているからなあ。
これからは、その知識を生かし、泥棒として荒稼ぎしようかねえ」
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