コンビニのコーヒーは魔境かもしれない

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コンビニのコーヒーは魔境かもしれない

最近、コンビニのバイトをはじめた。 自分の性にあっているようで、たのしく仕事をしているが、一つだけ懸念が。 お客さんが機械を操作してコーヒーをいれることについて。 コンビニのコーヒーは先払いとあって、操作を誤る場合もあるし、不正しやすくもある。 操作ミスしたなら、ふつう店員に声をかけるだろう。 問題は、注文したのより金額の高いものを、わざとカップに注いだケース。 一応、レジ付近に、どのコーヒーを注いだのか知らせる機械があるに、不正を見逃すことはない。 ただ、店員が気づいたとして、その客に声をかけるのは難しい。 なにせ、狙われるのは店が混んでいるとき。 客の長い列を前にし、慌ててレジを打っているときに不正が発覚したとして、そそくさと店外にでていく客を呼びとめることができるのか・・・。 なんて不安を抱えていたら、まさにそういう事態に遭遇。 店長と俺が二人でレジ打ち。 俺のほうには列が並び、店長は客をさばいてフリーに。 その客がカップを持ち、コーヒーの機械を操作。 ちょうど俺の目のまえの客が、財布の小銭を探していたに、ちらりと機械をを見たところ。 ブラックコーヒーを頼んだはずが、三十円高いカフェオレを注いでいるよう。 思わず店長を見るも、顔をふられる。 おそらく、その客が体格のがっしりとした、いかつい男だったから。 果たして彼は「まちがえた」と店員にいわずに、背をむけ歩きだした。 店長が「やめておけ」と目で訴えたとはいえ、このまま見送っていいのか。 葛藤するうちに、俺のレジの客が小銭をトレイに置き「ちょっと早くしてよ」とせっつくし。 混乱するあまり頭が真っ白になった、そのとき。 「あなた、注文したのとちがうのをカップに注いだんじゃないですか?」 俺のレジに並ぶ女性客が、まさかの指摘。 「ああ?」と柄のわるい声をだし、男はふりかえったが、女性客はまっすぐ見つめかえし、毅然とした態度。 やや気圧されたような男は「足りない分を払ったらどうです?」といわれて、舌打ちしつつ、店長のいるレジで精算。 皆、息を飲んで見守り、男がでていったところで、あらためて女性客を見やれば列の最後尾にだれもいなく。 そんな珍事が起こってから三日後。 山に放置された女性遺体が発見されたとのニュースが。 その人はコンビニ店長らしく、一週間前に失踪届けがだされたとのこと。 さらに、その二日後、犯人の男が捕まり、こう証言したという。 「払ったのより高いコーヒーをいれたのがばれて、あの女に注意をされた。 逃げたら追いかけてきて『逃げきっても警察に通報する!』と叫ばれて。 俺は保護観察中だったから、つい・・・」 このニュースを見て、俺はコンビニを辞めた。 コンビニのバイトで命を落としたくなかったし、といって、店長のように見て見ぬふりをできず。 だったら、どうすればいいのか、俺には分からなかったから。
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