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だれでも頭を切ってもいいわけではないようだ
「俺、明日、頭を切ってくるんだ」と宣言した同級生が翌日、額から上を失くしていた。
「頭を切る」の頭は、ふつう髪を指すものだが、ほんとうに頭部分を切断したらしい。
つまり、脳みそがなくなったわけで。
といって、彼の言動はまともだし、流血していないし、まわりも「顏のバランス変だなあ」と笑って騒ぎたてないし。
いや、変化はあったことにはあった。
なんと彼の性格がよくなったのだ。
彼は成績優秀ないい子の皮をかぶった隠れ不良。
イジメの影の首謀者であり、発覚したときは「まわりに脅されて、しかたなく!」と涙で教師をだましたほど狡猾なやつだ。
クラスを恐怖で支配していた彼だが、頭を切って、まずイジメていた相手に土下座をし、教師や生徒にも謝った。
そのあとは罪滅ぼしとばかり、なにかと皆に親切にし、困っていたら手を差しのべ、助けを求められたら快く応じるなど、ひたすら善行を。
おかげで、ひそかにイジメが横行して殺伐としてたクラスの雰囲気が、一転、和気藹々としたものに。
距離をおいて、クラスの変容を見ていた俺は、彼を羨ましく思ったもので。
前、彼が隠れ不良だったのは、変に考えすぎていたせいだろう。
だから、頭を切って改善された。
俺もまた、考えすぎて自縄自縛する傾向があるに、頭を切れば、彼のように人生が開けるかも。
そう考え、彼にどこで頭を切ったのか教えてもらい、その理容店へと。
店主に「彼のように頭を切って」と頼むも「いや、お客さんは」と渋ったから「彼にはできて、なんで俺にはできない?」と喧嘩腰に。
「もし、俺がおかしくなっても、あんたに責任を問わないから」
むきになって説得すれば、ため息を吐きつつ、店主は巨大な鎌をふるい頭を切断。
脳みそが切りはなされたとたん、なんともいえない解放感が。
にんまりすると、鏡越しにぎょっとした店主が見え、すかさずその手から鎌を奪い、体を真っ二つに。
鎌を持ったまま帰宅し、家族を皆殺し。
そして翌日、登校し、クラスメイトを血祭りにあげた。
最後に残った彼は、血まみれの女子を抱きながら「どうして!」と涙ながらに訴えて。
「きみは規則やルールを、とても重んじる人だったじゃないか!」
「そう、だから、したいことができなかった。
俺はずっと、みんな死ねばいいと思っていたんだ」
絶句したような彼は、でも、声を絞りだし、告げたことには。
「俺も、そう思っていた。
でも、それは寂しさの裏返しだったと今なら分かる」
鼻で笑い、鎌をふるって彼の首を切断。
血しぶきを浴びつつ、にやにやして云ってやったものだ。
「あいにく、俺は生まれてこの方、寂しさを覚えたことがないもんでね」
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