成田空港から飛行機で13時間(一気読み)

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成田空港から飛行機で13時間(一気読み)

 前日セットしたスマホのアラームが鳴る。  私はいつもと同じ時間に重たくなった瞼を開ける。  部屋の中はまだ暗い。  うっすらとだけど、カーテンの隙間から日の光が揺れるのが見える。  部屋の中の埃が太陽光をそう私に見させるのだ。  時間を確認すると6時10分を回ったところ。  私はすぐに二度目のアラームが鳴らないように画面をタップした。  いつもなら二度寝してしまうところだが、今日は違う。  まだ血流の回っていない額は重い。私はベッドの隣にある棚の方へゆっくりと手を伸ばすと、昨日開けたペットボトルに口をつける。  水分がゆっくりと喉を通り、そして胃の方へ流れると、不思議と全身へエネルギーが満たされて行くのを感じる。ゆっくりと起き上がったあと、疲れを外へ外へと解放するように大きく腕を伸ばしてのびをする。 「はっ」  溜息じゃない息が思わず口から漏れ出る。  左右に腰を捻ったあと、またスマホに目をやる。  時間は6時17分。  いつもならもう慌てて朝食を口に含み、外へと飛び出していてもおかしくないのだが、    今日は違う。    でも、ノンビリしてるのももったいない。 「もし此処が日本なら、とっくに遅刻だわ」  スマホの時刻はいつもの時間を指してはいるが、実際は日本とは異なっていた。日本時間なら今は10時17分。とっくに仕事が始まっているころだ。 「多分主任の山田さんは今頃ブーたれてるだろうな~~」  ストレスが限界に達した私は有給休暇を取っていた。 「まあ、そんなのかんけねーーだけど(笑)」  此処の時差は4時間。  私が居るのは東京の成田から13時間も掛かるモルディブのとある島にいる。  成田空港からシンガポール航空に乗り、途中シンガポールを経由してマーレへと入った。  マーレ航空からクルーザーに乗るとそれぞれ目的の島へと向かう。途中軍艦の一隻に遭遇。搭乗した船もそこまで小さくないのに、想像以上に大きくてびっくりした。  私が今回選んだのはタイが経営しているホテルのある島センタラ・ラス・フシ・リゾートだ。此処は特に大きな建物はなく、トレーニングジムやカジノなどの余分な施設もない。  綺麗な海でシュノーケリングを満喫したいだけの私には、そんな人工的なオプションは不要なのだ。コンクリートジャングルとアスファルトで大地が覆われた街から抜けたい私の身体は、喉の渇きを潤すように自然を欲していた。  カーテンを開けると眼前に拡がるのはエメラルドの海と地平線。何も人工物がない視界の向こう側は地球が丸いことを改めて認識させる。  地平線は真っ直ぐに平行ではなく、良く見ると曲がってみえるのだ。錯覚なのかもしれないけれど、今の私の瞳にはそう映っている。 「おっ!?」  声を出さずにはいられない。透き通る水底に黄色の大きな魚を発見したのだ。私は急いで窓を開けると、ベランダへと飛び出した。  ベランダの横にはすぐ海へと続く階段があり、そのまま海の中へ入ることができる。  そお~~っと足を伸ばす。 「ちべたっ」  まだ日が出たばかりだから当たり前である。  でもそんなことで私はめげない。今度は両足を水面へとつけ、階段をゆっくりと降りて行く。 「あっ………」    まだ下着のままだということをすっかり忘れていた。  幸い隣のコテージの人は誰も起きていない。  醜態をさらさずに済んだ。  でも、時既に遅く下は見事にビショビショ。 「まあどうせ換えるからいいじゃない」  誰かに言い訳するみたくひとりごちる。  部屋へ戻りすぐに旅行バッグから水着を用意する。水着に着替えると通販で購入した新しいシュノーケリングのセットを取り出す。  その場でレンタルできるとはあったけど、人が使用したものに口つけるのは流石に抵抗があるので、これからどれくらい使用するのかは分からないけど、そんなことは気にせずこの日のために購入したのだ。  よし、準備が出来た。  窓を開けて再び階段のあるベランダへと足を運ぶ。 「つめたっ」 「えっ?」  頭に水滴が落ちて来たので顔を上げると、いつの間にか大きな雲が空を覆い始めていた。 「マジか」  この地域独特のスコールと言う奴だと私は気付いた。  でも、こんなにも天気って変わるもの。 「まあ雨季に来た私が悪いよね」 「でも乾季に比べ安かったんだから仕方がないじゃん」  私は諦めて部屋へ戻ると誰も部屋にいないにもかかわらず、また誰かに言い訳をするようにひとりごちた。()といってもそこまで強い雨ではない。日本に比べれば全然マシだろう。  スマホで日本の天気予報を見ると、今日の東京は大雨らしい。梅雨の季節だから仕方がないっちゃしかたがない。  心の中ではやく雨が止め止めと念じる。 「ああ、もう待ってらんない」  ()()5()()()()5()()を私はかれこれ何度呟いただろう。  時間を確認するともう7時半を過ぎている。  まだまだ時間はあるけど、どうせなら早朝の海の中を漂ってみたい。 「あれ?」  窓から覗くと誰かが海の中を泳いでいるのが見える。  小雨ていどなら入ってもオーケーなんだ。  私は窓を開けると、ベランダに置いてあるヒレを装着する。少しきつめにゴーグルのゴムを閉めると階段を下りて行く。  冷たいは冷たいけど、中へ入るにつれて海面よりも温度が高いことが分かった。海中を覗いてみると例の黄色い魚だけでなく、青いのや何かキラキラしたのがいつの間にか寄って来ていた。  時間帯により来る魚が違うのかな?  私は両腕を空へと伸ばした後、海中へと潜った。視界は思ったよりも濁りはなく、案外とクリアーに見えた。  小さなサンゴに小さな魚が集まっている。  方向をコテージの下へ変えると思わず私はぎょっとした。  マンタがいたのだ。  こんなにも早く遭遇するとは思わなかった。  しかも想像よりもずっと大きい。  彼か彼女なのかは分からないが、それは海の上の状態など気にすることなく、自由にのんびりと水中を漂っている。  流石に潜っていると息が続かないので、私はまた水面へと顔をだした。  無我夢中で海の散歩を楽しんでいるうちに、空にあった大きな雲はいつの間にか消えていた。  私の視界には何処を向いても()()()()()の海が広がっている。 「もぉーーずっとここにいた~~い!?」 ━━終わり━━  
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