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第6話 不満と期待
僕には……無理だと?
「無理かどうかは、見てから言え!」
僕は、強く足を踏み出し、苛立ちを地にぶつけながら、建物へと向かって行く。
「おい、来!考えもなく突っ走るな!」
「黙れっ!お前が言ったんじゃねえか! 主導は僕がやれってな!! だから黙ってろ!」
「ったく……ガキが」
「あ? なんか言ったか?」
僕は、苛立った顔を見せて、麻緋を振り向く。
……こいつ。
立っている位置が、一歩も変わっていない。
口では止めるような事を言っていても、内心は止める気など更々ないという事か。
僕は、止めた足を再度踏み出し、建物の中へと入った。
ここに辿り着くまでの間に、目は暗闇に慣れている。進むのに難はない。
……とはいえ。
階段をのぼり始めていた僕だったが、途中で足を止めた。
何処に、何をしに行けばいいんだ……?
そもそも、それは建物の中で合っているのか?
いや、中で合っていたとして、上でいいのか?
上に行ったら行ったで、上の……何処だ?
「ああーっ……!!」
僕は、頭をグシャグシャと掻き毟った後、天井を仰いだ。
「任務の内容……聞いてねえ」
一人、苦笑を漏らす僕は、少し期待をしながら振り向いてみる。
「……」
ついて来ている訳、ないよな。
ああ、もう、なんで僕は、あいつに期待なんかしてんだよ。
そもそも、今夜が初対面の奴だぞ。気が合うも何もないじゃないか。
僕は……あいつの……麻緋の何も……分からない。
……麻緋だって同じだ。
『無理だろ、お前には』
麻緋に僕の何が分かるっていうんだよ……。
僕は、上着の内ポケットに入っている呪符を、上着の上からギュッと握る。
そして、僕はまた階段をのぼり始めた。
仕方ない。
取り敢えず、階層を順に見て行くか。
怪しいもんでもあるならば、直ぐに分かるだろ。
それが任務かどうかは知らないけど、何か見つかれば分かる事もあるはずだ。
正直、暗闇に目が慣れているとはいえ、もう少し灯りは欲しいところだ。
呪符を使って灯りをつけるという手もあるが、そう無駄には使えない。
麻緋の話から察するに、闘う事になりそうだしな。
だったら……今のところ何もないんだし……。
「この間に何枚か、描いておけばいいんじゃね?」
僕は、階段の踊り場まで行くと呪符を取り出し、その呪符を使って灯りをつけた。
その瞬間。
爆発音と共に、階段の下から上へと向かって、爆風が吹き抜けてくる。
「っ……!!」
踊り場の窓に体を打ち付けられガラスが割れたが、鉄格子が僕の体を支えている状態だ。
なんだ……? この爆風……。
爆発音は聞こえたが、火の手は見えず、暗いままだ。
爆発音も一度聞こえただけで、爆風だけが続いている。
僕は足に力を入れ、爆風に耐える。
だが、僕の体を外へと押し出すように、風圧がどんどん強くなってきた。
息苦しさを感じる中、上着がバサバサと煽られ、ポケットから呪符が抜け出していく。
まずい……! 呪符が……!!
爆風が呪符を奪っていく。
僕は呪符に気を取られ、足の力が緩んでしまった。
鉄格子が負荷に耐え切れず、壁を崩し始める。
やまない爆風は、更に負荷を与え、僕を壁ごと外へと押し出した。
落ちるっ……!!
背後から落下する僕は、どうにか上手く着地出来ないかと体勢を変えようとするが、外へと吹き出した爆風は何故か分散せず、僕にだけ圧を掛けてくる。
こんな風圧を受けたまま叩き付けられたら……。
方法はないかと考えを浮かばせる中、横目に呪符が目に捉えられた。
僕は風圧を受ける中、呪符へと必死に手を伸ばし、その手に掴む。
「散れっ……!」
ボンッと鈍い、籠ったような音がすると爆風は分散し、分散した風圧を逆に利用して僕は無事に着地した。
「おい」
麻緋の低い声が側で聞こえる。
その声に振り向く僕。
「お前……何をやってたの?」
「何って……」
……言い返す言葉がなかった。
「なあ、来。気づいてる?」
「……気づいてるよ」
決まりが悪い……。
僕は頭を垂れ、言いたくないなと思いながら、ボソボソと言う。
「麻緋がいるこの場所って……僕が中に入って行く前から……麻緋が立っていたところだよね……」
「聞こえねえな? なんだって?」
「だから……!」
ああ、もう一度同じ言葉なんて言いたくない。
口籠る僕に、麻緋が言う。
「呪符だけに頼るな」
……麻緋……。
真剣な目だった。
「そんな事言ったって……僕は……符に呪を掛けなければ……術が使えない」
「俺は呪符を使うなとは言っていない、呪符だけに頼ろうとするなと言っているんだ」
初対面の初任務。
互いの事など分からない。分かり合える訳がないと思っていた。
だけど……。
麻緋は、ゆっくりと足を踏み出しながら、僕に言った。
「俺にも頼れ。その為の相棒だ」
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