小夏ちゃん

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小夏ちゃん

 小夏ちゃんが入園してきて、賢い子だと最初に思ったのは、まだお弁当が始まらない午前保育の時期で、かなり初期だった。 小夏ちゃんが使っていたセロテープを他の子が使いたがり、一瞬険悪になりかけた。するとすかさず彼女は、そのセロテープを譲り、教卓から教員用のセロテープを持ってきた。 「私こっち使う。先生、いい?」  ニコッと微笑んだ。  私は、もちろん、と言いながら、内心舌を巻いた。この年の子供に似合わない、クレバーなやり方だった。 「すごいね、えらいなあ」  思わず私が言うと、小夏ちゃんは笑った。 「私ね、もうすぐお姉ちゃんになるの。ママのお腹に赤ちゃんがいるんだよ。妹なんだって。楽しみだなあ」  ああ、精一杯お姉さんになろうとしているのか。こんなに小さいのに、妹を迎える支度をしているんだ。感動した。  あの感動を、私は生涯忘れないに違いない。
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