初彼のこと

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初彼のこと

 大学1年の頃、初めて彼氏ができた。  同じ講義をとっていた、1年先輩だった。  向こうも1浪していたので1つ年上で、地方出身で一人暮らしをしていた。  私はひとりっ子だけど彼は3人兄弟の長男で、面倒見のいい人だった。  私がカフェでアイスティをぶちまけた時、雑巾を借りてテーブルや椅子や床を拭いて、おしぼりで私の服も拭いてくれた。  学生でお金はなかったけど、ファミレスでドリンクバーを頼んで長い時間おしゃべりするのが楽しかった。  2人とも歩くのが苦にならない性分だったので、よく遠くまで一緒に歩いた。歩いている途中で、小さいお店や季節の花、地元の神社を発見するのが面白かった。  ある時、体の関係を迫られた。  私は、そういうことは結婚してからするものだ、結婚してからすべきだと思っていた。  素直にそれを伝えると、戸惑ったような、ガッカリしたような、(さげす)むような目で見られた。 「俺のこと、好きじゃないんだ」  それとこれとは別だ。今度は私が戸惑った目をするしかなかった。 「好きだけど、したくない。それはダメなの?」 「もったいぶってんじゃねえよ」  その一言で、私達の関係は破綻した。  私は彼と一緒の講義に出るのをやめて、スマホから彼のデータを消した。  彼には言えなかったけれど、というか誰にも言ったことがないけれど、まだ小さかった頃、酔っ払った父から、お前がお腹に入らなければお母さんとは結婚しなかった、と言われたことがある。  母は父の布団を支度しに行っていて、その場にいなかった。  今考えれば、これは言葉の暴力だ。  だけど当時はまだ小さかったし、自分が悪いように思ってしまった。  この件は私の心をひどく(むしば)んだ。  成長して、子どもができる仕組みを理解してからは、私は性行為というものは、結婚してからすべきと思うようになった。  結婚もせずにそういうことをするから、私みたいに悲しい思いをする子が生まれる。それはダメだ。  あーちゃんには、このことは言ってないけど、彼とのいきさつをすべて話していたから、これまで恋愛をオススメされたことはない。
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