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2人でチキンサンドを食べながら、ゆっくり話をした。
重岡さんのお父さんは海外駐在が多くて、それに同行して色々な国に滞在したから、日本で落ち着いて暮らしたのは大学の時からだそうだ。大学は日本で通って、そこで森本さんと知り合ったと言っていた。
年齢は30歳で、私より5つお兄さんだった。
「重岡さんも森本さんも、若く見えますね」
「川澄さんもね。学生さんかと思いましたよ」
この人の、のんびりゆっくりした感じが、とても心地良かった。
仕事で毎日あくせくして、ささくれ立ちがちな気持ちが、癒されていく感じがした。
チキンサンドとポテトとオレンジジュースを完食して、なんとなくもっと話をしたい気がして、
「コーヒー飲みませんか?」
聞いたら、
「いいですね。今度は俺が奢ります」
ニコッと笑った。いい顔で笑う人だった。
結局夕方まで一緒にいた。
コーヒーを飲んだ後、川沿いを散歩しながら、風に吹かれておしゃべりをした。
会社勤めをしてなくて、自分で仕事をしているから、休みはその時で違うそうだ。今日は休みだけど、明日は早くから仕事だと言っていた。
「今、先輩が休んでいるから忙しくて。残業続きだったから寝坊して」
「休んでもカバーしてくれる人がいるのは羨ましいですね。俺は1人で仕事してるから、そういうフォローはないですからね」
仕事はパソコン関連だということだった。
「私、パソコンはほとんどわからなくて」
と言ったら、
「俺は幼稚園の先生みたいにピアノは弾けないですからね。分業ですよ、分業」
って笑った。
その感覚が、私を下に見ない感じが、すごくいいなと思った。
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
と言われたのは、17時を少しまわった頃だった。
もっと一緒にいたかったな、って思う自分に戸惑った。
「今度は、夕飯をご一緒したいけど、ダメですか?」
自分の口からこんなことを言うなんて。
今日の私はどうかしている。
だいたいさっきから、寝坊しなかったらもっと一緒にいられたのに、とか後悔しているのだから、始末に負えない。
「ダメじゃないですよ、ぜひ」
にっこりする。この顔がいいと思う。
特にイケメンとかではないけど、ホッとする顔。
「またメールしますね」
駅で別れる時、じゃあまた、と背を向けた後、こっそり振り向いた。さっきまで一緒にいたのにな、なんて名残惜しくて。
そうしたら、重岡さんも振り向いてこっちを見た。目が合った。思わず赤くなる。ニコッと笑って手を振ってくれた。
私も手を振りながら、次に会えるのいつかな、と、もう待ち遠しかった。
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