理想

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理想

 私の名前は川澄(かわすみ)(はるか)。  25歳で、幼稚園で働いて2年目になる。  小さい頃から夢見ていた、幼稚園の先生。頑張って資格をとって、就職できた時は嬉しかった。  初年度は補助的役割だったが、2年目には年少組の担任となった。初めは緊張の連続だったが、程なくなじんだ。子供だけでなく職員も大切にする幼稚園で、園長以外は女ばかりの職場だったけど、職員同士の仲はごく良好で、先輩方はよく気にかけてくれた。  わんぱくな子や泣き虫な子にも手を焼いたけど、戸惑ったのは障がいのある子の対応だった。  幼稚園を創立した先代の園長が牧師で、博愛の精神に基づいた幼稚園のため、障がいのある子どもも分け隔てなく受け入れた。  誰もが尊重される保育、という理念のもと、全員を大切に育む。  障がいを抱える子どもたちについては、それぞれのケアのポイントを掴むまで苦労した。苦労した分、思い入れは深かった。  厚くケアしながら、他の子にも態度は公平に。難しいことだった。  子どもが好きという単純な理由で幼稚園の先生になった私には、深い理念はなかったが、先輩方が毎日1人1人の子どものことを懸命に考えて保育にあたる姿を目にして、おぼろげながら、誰もが大切にされる保育現場というものに理想を見出した。  そんな現場のために、自分の力を高め、尽くすことができたらと思い始めていた。
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