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葬儀は、ごく身内で小さく行われた。
園の職員は、全員が通夜に参列した。
小夏ちゃんの母親は、取り乱してこそいなかったが、小さな棺から離れようとしなかった。
体中の水分が目から流出してしまうのではと思うほど、涙が止まらなかった。
父親は、以前入園式で見かけた時からすると、体が半分になったかと思われるほどに縮んでいた。打ち萎れて、髪は乱れ、生気が失われていた。
生まれて間もない、小夏ちゃんの妹が、親戚と思しきおばさんの胸に抱かれていた。赤ちゃんは無邪気に笑っている。小夏ちゃんに良く似ていた。おばさんは笑いかけながら、涙をこぼしていた。
私は園庭の片隅から摘んできた花を、棺にそっと入れた。
入院する前、園庭で小夏ちゃんと遊んだ時に2人で見つけた。
『このお花きれい、とってもきれい』
『ホントだねぇ』
2人でしばらく眺めた。
あの時彼女は無邪気に笑っていた。まさかこんなにすぐ天に召されるとは、誰も思っていなかった。
会場は沈黙に包まれていた。
母親のすすり泣きより他に、誰も何も発することはできなかった。
何が言えるというのだろう。この母親と父親を前にして、役に立つ言葉なんて、たとえ神様だって持ち合わせていないに違いない。
長居をせずに、職員達は帰途についた。
最後に園長が、父親に何かあいさつをしていた。 父親は、力なく頷いただけだった。
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