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私の家族
日常は容赦しない。朝になれば園児達は登園する。私達は日々の保育に追われた。小夏ちゃんの訃報は園児と保護者に伝えられ、園は悲しみに包まれた。
いつも通りに、いつも通りに──自分に言い聞かせる。笑顔、笑顔、子供達が不安にならないように──。
だがそれは、確実に私の心を蝕んでいた。私はそれに、全く気づいていなかった。
最初に気づいたのは母だった。さすがに私を産み落とした母だ。侮れない。
「おでこが荒れてる」
夕飯の時、母が言った。
「疲れてるね。食べたらお風呂入って早く寝なさい」
私は何故か昔から、疲れたりストレスがたまるとおでこが荒れる。
ただ、いつも自分で気づくのに、この時は全く気づかなかった。
「ホントだね、早く寝る」
素直に従うと、その日は早く床についた。
我が家は父と母と私の3人家族だが、父はあまり家には帰らない。
愛人の家で過ごすことが多い。
愛人は、佐伯さんという。腹のすわった、気風のいい女性。小料理屋を営んでいて、とても繁盛している。
双子がいる。父と佐伯さんの子供。由子さんと健太郎くん。2人とも快活な性格。双子の姉の由子さんは学業も優秀で、国立大学の薬学部に現役でパスした。
一浪しても、大した大学に入れなかった私とは大違い。
父は2人を認知している。認知する時、母に佐伯さんのことを話した。残酷な話だ。
母は短大を卒業してすぐに父と結婚して家庭に入ったから、就業経験もない専業主婦で、当時まだ小さかった私を抱えて外でバリバリ働くタイプではない。
母の実家は母の兄が家業を継いでいて、結婚して子どもが2人いて、祖母と同居していた。母と私が転がり込む隙はない。
父は母が自分から離れないことをわかった上で愛人をつくり、そのことを母に暴露した。
我が父ながら、なんてことをするのだろう。信じがたい。
ちなみにこのことを私が知ったのは、20歳を過ぎてからだった。
父は、祖父が興した会社の跡取りとして生まれた。
何不自由なく育ち、その会社の跡を継ぎ、今に至る。
会社の業績は順調で、社長である父に、誰も何も言わない。
ちなみに父は祖父と祖母が40歳の時の子どもで、祖父母は私が小さい頃に亡くなっている。
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