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その晩のうちに、由子さんにはこちらの状況を話しておいた。
私が殴られたときの証拠が病院に残っているから、何かあったら活用できること。
私も母も、もう川澄の家には戻らないこと。
私は仕事があるからこの街に残るけれど、母は実家に戻るので、この街を離れること。
由子さんは、しっかり耳を傾けてくれた。
「私もね」
少々酔いが回った頃、打ち明けた。
「あの人に、お前がお腹に入らなかったらお母さんとは結婚しなかったって言われたの。ずっとそのことが傷になって……だけど由子さんも同じだったのね。健太郎さんも」
由子さんは何杯目かのビールをあおりながら、
「お互い苦労したわね。……しなくてもいい苦労を」
しみじみ言った。
「だけどこれからは違う。あの人と離れて、やっと楽になる。お互い、幸せになりましょう。この店で会ったらまた飲みましょうね」
自然な笑顔だった。本来の彼女だ。
「ええ。お互い幸せを掴んで、また飲みましょう」
モモタさんが、ホッとしたように微笑んだ。
「どうなるかと思いましたけど……良かったですよ。これからもこの店をご贔屓に」
すかさず由子さんが、
「あの人の出禁は解除しないでよね」
顔をしかめて、さも嫌そうに言うから、みんなで笑った。
いい夜だった。
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