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甘えん坊の夜
バーを出ると、酔った頬に夜風が気持ちよかった。
月のない夜で、星がたくさん輝いていた。
「明日から仕事かあ。……濃い冬休みだったなあ」
私がつぶやくと、
「うん。人生で1番濃い冬休みだった気がする……」
まーくんもつぶやいた。
「がっつり巻き込んじゃったね。……ごめん」
「いや……むしろ良かった。遥ちゃん1人に対処させなくて済んで」
まーくんは私の肩を抱いて、
「さ、帰ろ」
ニコッとした。
そのニコッとした顔を見たとたん、胸がキュッとなって、がまんできなくなって、まーくんに抱きついた。
思うよりも、自分がいっぱいいっぱいだったことに気付いた。
今日1日で、色んなことが変わった。
生まれ育った家にはもう帰らない。
母とももう暮らさない。
父とは決別した。
これからは、まーくんと一緒に生きていく。
「……遥ちゃん?」
まーくんはわけがわからないなりにも何かを感じとってくれたようで、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「まーくん、私、酔っ払っちゃった。もう歩けないから、おんぶして」
今まで、親にだってこんなふうに甘えたことはない。普段だったら絶対言わない。この夜、私は突き抜けていた。
「……仕方ないなあ」
ホラ、としゃがんで背中を向ける。広い背中。
誰かにおぶわれるなんて、赤ちゃんの時以来だ。
温かい背中につかまって、安心して家路についた。
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