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母のこと
出勤直前、玄関で鼻血が出た。
鼻血なんて何年ぶりだろう。
幸い服は汚れなかった。
電車を1本遅らせることにしてティッシュを手に下を向く。母が氷を持って来てくれた。
「今日は休んだら?」
母が気づかわしげに言う。
「そんな、鼻血くらいで休めないって。今忙しい時期だし、先輩たちも残業バリバリなんだよー。ホラ、もう止まった。行ってきまーす」
笑顔で家を出る。
母は短大を卒業後、就職せずに父と結婚した。
以来ずっと専業主婦なので、仕事に関してはいまいち理解がない。私の仕事も、結婚したらやめるとしか考えていない。
時代は変わり、結婚しても女性が働き続けることが一般的になっていることなど、思いもしない。
仕事には責任が伴い、簡単に休んだりできない、たとえやめるとしても、やめるまでは責任を持って働かないといけない、と説明しても無駄なことは、これまでの経験から明らかだった。
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