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先生「じゃあ、何か質問がなければ5年2組の今日の学級会、終わるけど」
定吉「はーい!」
先生「ないようなので終わりにします」
定吉「はーいはーいはーい!先生、オレオレオレ」
先生「オレオレ詐欺か。あのですね、定吉君。毎回、そんなに質問あるもんかな」
定吉「ありありあり!」
先生「1週間まとめて1回じゃだめ?」
定吉「だめでしょう。今日の質問は今日のうちにって、レオナル・ド・ダヴィンチも言ってます」
先生「言ってないと思うよ。ちなみに、いつも君の質問のおかげでこのクラスだけものすごく終わるの遅くなるわけ。帰る時間がのびちゃうのよ。それで親御さんからも苦情来てるんだよ」
定吉「モンスターペアレントってやつですね」
先生「違う。他のクラスより1時間も遅く終わったらどの親だってそりゃ文句言うよ」
定吉「じゃあ、いたいけで純粋なオレの質問を無視しても構わない、という立ち位置ですか」
先生「立ち位置って。いや、だからさ、10分以内にしてほしいんだよ」
定吉「先生次第だと、ひろゆき派のオレたちは思う」
先生「いつできたんだそんなもの。え、他に仲間いるの?」
定吉「オレの中に24人のオレがいて」
先生「ビリー・ミリガンか。今度病院行こう」
定吉「とにかく、オレたちが納得するような明快で説得力のある答えがあれば、5分もかからない。バイ ソクラテス」
先生「ソクラテスはそんなこと言ってないと思うぞ。まぁ、いい。なんだ質問って」
咲子「先生!」
先生「なんだ咲子」
咲子「私たちは帰っていいですか」
先生「おいおい、だめだよ。一蓮托生だろ」
咲子「なんですかそれ」
先生「みんな一瞬ってことだよ」
咲子「先生とそんな血判交わしたことないですけど」
先生「そんな大袈裟な話しじゃないよ。みんなクラスメイトだろ。それにお前はクラス員委員長なんだかさ、終わる時は一緒」
咲子「死ぬ時もですか」
先生「学級会の話です」
咲子「じゃあ次の生徒会長選挙の時、根回しお願いできますか」
先生「・・お前かわいい顔してなかなか黒いな」
咲子「私には野心がありますから。ブラック企業並みの劣悪な環境の小学校教員なんかにおさまりたくないんです」
先生「・・・ふーん、あっそう。とにかく、定吉が納得しない限り学級会は終わらないから」
咲子「ひどい。パワハラじゃないですか。定吉くんの犠牲者を増やさないでください」
定吉「咲子、なんだよその言い方。まるでいつも俺が完全犯罪をするルパン三世みたいじゃないか」
先生「定吉、さりげなく自画自賛するな。とにかく、定吉の質問を聞こうよ、みんな。すごく嫌だけど我慢してくれ。定吉、なんた質問は」
定吉「そうこなくっちゃ。徹夜も辞さないぞ」
先生「定吉、笑えない。早く言いなさい」
定吉「はい。今日の議題。学芸会の出し物。合唱に多数決で決まりましたよね」
先生「その通り。ひとりを除いて合唱。だから多数決の原理で、合唱をやる」
定吉「今どき多数決で物事を決めるというのは、この多様性の時代に合わないのではないですか」
先生「そんなことはない。合議制は立派な決め方のひとつだ」
定吉「先生」
先生「なんだ」
定吉「ネオソクラティックダイアログって知ってますか」
先生「・・・いや、知らん。ちょっと待て!それをいま長々と説明しようとししているんだろうが、その説明はしなくていい。もう合唱に決まったんだから」
定吉「ネオソクラティックダイアログというのは」
先生「おい、聞こえんのか定吉!」
定吉「ネオソクラティックダイアログというのはそもそもソクラテスがやっていた哲学対話のあり方で、ひとりでも違う意見があれば、最初からみんなで話し合って、全員が一致するまでそれを何時間かかっても繰り返すというもので」
先生「定吉!もういい。学級会は哲学対話じゃない。合議制で決めるのが一般的だ」
定吉「先生、ひとりの意見を無視することが教育のあるべき姿だと本気で思っているんですか」
先生「お前ほんとに5年生か。どこでそのディベートスキル習った」
定吉「ベネッセコーポレーション」
先生「それはないな。とにかく、先生は無視はしてない。してないが1人だけ、まあ、お前だが。阿波踊りがいいという案は誰も賛同しなかったんだ。合議制こそ、ここでの正義だ」
定吉「正義?じゃあオレは悪なんですか。これはもう教育委員会通報案件ですね」
先生「お前はこれまでも何度も通報してるじゃないか。それで相手にされなかったろ。これが現実だ。少しは学びなさい。はい、終わり」
定吉「じゃあで、す、ね。昨夜ラブホから川田恵美先生と出てきたことを公にしていいんですか」
先生「うっ!!!お、お、お前なんでそれを・・!」
定吉「あ、本当だったんだ。鎌かけただけなんだけど。みんな聞いた?」
先生「お、お前ぇぇぇぇ!!いや、嘘だぞみんな。いまの定吉の話はフェイクだからな」
咲子「先生、不潔です!」
先生「違うって!定吉のでっち上げだ!!」
咲子「先生、ドアノックされてますけど」
先生「あ、ちょっと待って」
先生「校長・・」
校長「栗林先生、なんですかいつもいつも。他のクラスはもうとっくに帰ってますよ」
先生「いやだからあの子ですよ、定吉」
校長「君はひとりの生徒に翻弄されてるのかね、毎日毎日」
先生「聞いてください。学芸会の発表。定吉くんを除いて合唱なんです。それを彼が不満で意義申し立てしてるんですよ」
校長「定吉くんは何をやりたいんだね」
先生「よりによって、阿波踊りです。あり得ない」
校長「いいじゃないか阿波踊り!私は大好きだ」
先生「えーっ!学芸会で阿波踊りって」
校長「だいたいだね、今どき合唱ってのが予定調和なんだよ。何にもしたくないから1番楽な合唱を選んでるんだ。阿波踊りけっこうじゃないか」
定吉「さすが校長先生」
先生「お、お前いつの間に。教室に入ってなさい!」
校長「ちょっと待ちなさい。定吉くん、なぜ阿波踊りなんだね」
定吉「はい。先日亡くなった祖父が阿波踊りが好きで、オレも教わってたんですけど、その晴れ姿を見せられず祖父は・・・」
校長「そうかそうか。おじいちゃんに見せてあげたかったんだな」
先生「校長、騙されないでください。こいつ平気で嘘つきますから」
校長「なんてことを言うんだね栗林先生。こんな純粋な気持ちを叶えてあげるのが教師の役目だろ」
定吉「やはり校長まで登りつめる方は違いますね」
先生「定吉、オメェ」
校長「私がもう一度、出し物を何にするかみんなと話し合おう」
先生「校長!今から?!」
校長「徹夜も辞さない」
先生「えーっ!こりゃあ、今日ものびるなぁ・・・」
定吉「ラブホの件もありますしね」
先生「定ぁぁぁぁ!」
咲子「先生、鼻毛、伸びてます」
【了】
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