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かぐや姫が目を覚ませば、箱の中であった。竹ではなかったのは、天人なりの優しさかもしれない。箱はとある京都の山の中にある。箱の中は狭いが昼間以上に明るく光り輝いていて、赤子の彼女にとっては心地の良い場所であった。ちなみに、前回は三寸──約9cm程の大きさだったのに対して、今回はきちんと人間の新生児と同じような大きさをしている。
「あれ、あの箱光ってへん?」
「え、ほんまやん。気色悪いなあ。」
二人の青年であった。気色悪いとは心外、と足らぬ言葉で思う。赤子と言うだけあって、言葉は一切合切分喋ることが出来ないのだ。暫くしたら自然と戻ってくるものだと彼女は分かっているので、今は何も思わない。しかし、前に言葉が喋れなくなった時は酷く焦ったものだ。
「今日に限ってほんま最悪やわ。あんた、ちょい警察に連絡して。」
「せやな。もしもし──────。」
青年は、この土地の持ち主の男の息子であった。父親が病気になって山の管理を頼まれたのが今日、下山するのが遅くなったという。しかし、かぐや姫からしてみたら、そんな事情は知る由もない。気色悪いどころか自身の存在を嫌がっている様子に、腹立たしさすら覚える。彼女は、腐っても天人なのだ。しばらくすると、鳥は一斉に羽ばたく。山に踏み入る足音は、警官のものだ。
「初めて来たらこれですわ。ほんま参りますよ。怖くてよう開けれませんわ。」
「あー、本当ですね。とりあえず開けましょうか。危ないものが入っていなければいいですが。」
淡々と話す警官の姿に、かぐや姫は一抹の不安を感じた。前回、翁は私を見て喜んでいた。竹を切る前も、少なくとも厄介だと思う様子は見せなかった。
(何が起こるの?このまま、殺されるの?)
人間界は苦しみに満ち溢れている。最初の苦しみがこれとは、まさか思いもしない。
「じゃあ開けますよー。」
警官は手袋をはめ、慎重にその箱を開く。
「これは……!」
「稚児とちがうか……!」
「ひえっ……!」
(助かった……?)
警官は急いで応援を頼み、青年二人は腰を抜かす。青年のうち、弟の方は本当に腰を抜かしていた。厄介事に巻き込まれたという表情をする兄。無理もない。父親から任された土地で事件が起きたのだ。この時代、捨て子がいたとあらば刑事事件となるのは必須だろう。自分も参考人として捜査に協力しなければならないのだし、万一疑われるようなことがあればたまったもんじゃない。
(というか、なんで光っとったんや。)
兄は思う。捨て子ならば、わざわざ目立たせるようなことをしなくても良いのにと。目立たせて拾わせようと誘導する、最後の親の愛なのかもしれないが、それなら里子に出せば良いものを。
(これではまるで、かぐや姫やないか。)
兄はそんなことがある訳ないと首を振る。山の周りには赤々と光る車が集まり、かぐや姫も保護された。
「寒かったなあ。病院いくさかいに、心配せんでええ。」
少し歳のいった女が、かぐや姫を抱き上げた。かぐや姫は酷く安心する。この女の顔が、どことなく嫗に似ていたのだ。自分が殺されないと理解した時、一瞬の緊張が解けたからか、かぐや姫は眠りについた。
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