渡せないもの

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朝、彼は自分の隣にある微かな温もりを感じて目を覚ました。隣には陶器のように白い肌、絹のようにつややかな白い髪を持つ少女が眠っていた。それは朝の優しい光に照らされ神秘的ですらあった。彼は思った。 描きたい。 気付いたら彼はスケッチブックを取り出していた。昨晩のように鉛筆を滑らす。鉛筆の線が日の光に反射して白く輝く。なめらかに柔らかにその絵は、出来上がっていった。すべて描き終えると彼はスケッチブックをその場に放り出し駆けだした。彼が戻って来たのは昼過ぎだった。コンビニで買ったであろう昼食を片手に、もう片手には埃をかぶり色あせた絵の具のセットをもっていた。彼は手にもっていたものを木の幹に置くと、周囲をみわたした。スケッチブックが消えている。ついでにあの少女もいない。彼は必死に探し始めた。しかし、全く見つからずに時間は過ぎていく。やがて夕方になった。まだみつからない。彼はため息をついた。 諦めてしまうか? そんな思考が出始めた。 カサ どこからか音が鳴った。彼は音が鳴る方へそっと近づく。一部背の高い草が生えていた森の中に少女がいた。少女は、彼の身スケッチブックを抱え、ガラス玉のような瞳で彼をじっと見つめた。
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