渡せないもの

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寝よう 彼は寝転がり目を閉じる。しかし目を閉じた暗闇の中浮かんでくるのはひかりを纏っていない暗い過去の記憶だけだった。なぜか目を閉じた暗闇の中同じく暗い過去だけが浮かび上がる。 …楽しかった記憶もあるはずなんだがな 彼は目を閉じたまま苦笑する。ふと目を開けると月の白い光があまりにも眩しく目を細めた。あまりのまぶしさに目を閉じたその時、 「う、うう…」 微かなうめき声が聞こえた。視界の隅で何やら震えている。慌ててそちらを見やると、彼女の白い体にケバケバしい緑が巻き付いていた。彼は目を見張った。彼女にあまりにも似つかわしくないそれは彼女を取り込もうもしているようだった。彼は必死に揺さぶり起こそうとした。しかし彼女は、起きることはない。どうすることも出来ずに仕方なく隣に寝転がった。微かなうめき声が隣から絶え間なく聞こえる。 今夜は、眠れそうにないな… 彼はだまって空を見る。そうして目を閉じてふと考える。 いつからだったか。色とりどりの鮮やかな景色より無彩色に近い夜の空を好きになったのは。もう大分前のことだろう。たとえ鮮やかなはずな景色も、一つ無彩色があるだけで彩りがなくなる。それらは無彩色の夜空と変わらないものとかした。それならばと、同じ無彩色でもキラキラと輝いている夜の空を選んだ。かつての自分が好きだった景色はもうどれも輝くことはないだろうから。 目を開けるとそこにはもう見慣れてしまった無彩色が広がっていた。眩しいくらいの輝きを放ちながら。それはあまりにも真っ直ぐな自然の光。人工的に作られた色とは違う。とても綺麗な輝き。しかし彼はその光をさえぎるように目を閉じた。
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