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 男は話し終えるとベンチの背もたれに深く背中を預けて、ゆっくりと天井を仰ぐ。 「祟られというのは、実に難儀な体質ですよね。悪いモノに纏わりつかれるだけでなく、人からの怨みも買ってしまうのですから」  その言葉が暗闇を揺蕩い、雨音に掻き消されていく。  今回男が話してくれたのは意味怖チックなものだった。祟られ体質のBが居たにも関わらず、最後はAの上司が事故死してしまう。矛盾しているようでいて、よくよく考えればそんなことはない。男の言葉から推測するに、AがBに別れを告げた時。また会おうという意味で別れを告げたのではなく、永遠の別れを告げたということなのだろう。 「ええ、ええ。ご明察のとおりです」  BがAに連絡を取り祟られの話をしたことで、Aは呪法が本物であることを理解した。しかし、Bの体質のせいで上司を呪い殺すことはできない。だからまずは、邪魔者であるBを手にかけることにしたのだろう。  Bのことを考えれば、遣る瀬のない気持ちでいっぱいになる。難儀な体質に苦労してきたにも関わらず、最後は助けたいと思った旧友に殺されてしまうのだから。あまりにも不憫だ。 「ちなみに、Bは後日展望台の下で見つかりまして。誤って転落したのだろうと、事故で片付けられたそうです。……意識が途切れるまでの間、Bは一体何を思っていたのでしょうね」  困惑。絶望。予想はいくらでもできるが、真実はもう誰にも分からない。 「さて、この話はここらにしておいて。次の話はそうですねぇ……ああ、これなんかどうでしょう?」  男が指で示す方を見ると、そこには寂しく小屋の隅に転がされたハイヒールがあった。ヒールが折れているうえに片方だけしかなく、泥に塗れて見るも無残な状態である。それがどうしてこんなところにあるのかは分からない。分からないが、捨てられているハイヒールというのは何故か何とも不気味な雰囲気を醸す。迷うこともなく是非、と男に頼んだ。 「それでは次はハイヒールについてのお話をしましょう」
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