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 男はこちらを向いて微笑む。どうやら今ので話は終わりのようだ。男はどうして閉じ込められてしまったのか。心の中にこういうことだろうという予想は立てているが、答え合わせのつもりで男に問うた。 「雨が降ると現れる不思議な家ですからね。出入りが出来るのは雨が降った時だけ、ということですね。だから貴方も雨が降った時にだけ現れるモノには気をつけてください」  つまり、雨が止んだから外に出られなくなったと。男が外に出られるのは次に雨が降った時だけ。すぐに降れば生きて脱出できるだろうが、もし数週間もの間雨が降らなければ。水も食糧もない場所だ。どうなるかなど火を見るよりも明らかだ。  部屋の中にあった人骨は誰かに殺された訳ではなく、男と同じように迷い込み、次の雨が降る前にこと切れた哀れな来訪者の末路ということだ。その後、男が無事に脱出できたかどうかも気になるところではあるが、さすがにそれは無粋な質問だろうと心の奥に仕舞った。 「お気に召されましたか?」  男の言葉に迷わず頷いた。それは良かったと男も満足気に頷く。他の話を聞いてみたいと言うと、男はにやりと口の端を吊り上げた。 「ええ、もちろんですとも。時間は沢山ありますからね」  男は顎に指を添えて唸る。次の話をどれにするか迷っているのだろう。薄暗い空間に激しい雨の音だけがやけに響く。こちらからリクエストをした方がいいだろうかと口を開こうとしたその時、少しだけ早く男が口を開いた。 「そういえば。明後日、この近くでお祭りがあるそうですよ。せっかくなのでお祭りがより楽しくなるように、次はお祭りに因んだ話をしましょうか」
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