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 男はゆっくりとこちらを向いて微笑んだ。この話はこれで終わりのようだ。お面などから覗いていた目は一体何なのか。明らかにストーカーなど人間の仕業ではないことだけは確かだろう。  誰かに呪われでもしたのか、それとも何か触れてはいけないモノに触れてしまったのか。その正体が何なのか、少しだけ気になった。正体不明は怖い話ではよくあることなので期待せずに聞いてみる。すると、男は少しだけ考え込むような素振りをして、ゆっくりと口を開いた。 「話の中では建前上日雇いのバイトと言いましたが、実は男が軍資金として持っていた二万円は……前日に同級生からカツアゲしたものだったんですよ。男を睨んでいた目は、カツアゲされた同級生のものだったのかもしれませんね」  男は苦笑いをしながら裏側の話を教えてくれた。祭りの前日に同級生から軍資金をカツアゲしたが、買った怨みのせいで想い人の前で情けない姿を晒す羽目になってしまう。それはそれで怖い話として成立している気もするが。 「話はまだふたつめですから。それもこんな土砂降りの雨の中でいきなり気分の良くない話をするのも、と気を遣ったつもりでした」  必要のない気遣いだったが、状況に合わせて話を変えていけることに驚いた。それだけで男が話し慣れているであろうことが窺える。 「やはり怨みを買うようなことはしてはいけませんね。人間、真っ当に生きるのが一番です」  男の言葉が雨音に紛れて染み入る。正直者が馬鹿を見る残酷な世界。それでもその言葉を信じて真っ当に生きているのは何故だろうか。無意識に守っている何かが壊れないようにするためか。 「でも、世の中には真っ当に生きていても祟られる人がいるんですよ。祟られ、と呼ばれる特異な体質をご存じですか?」  聞いたことはないと首を振った。それを見た男は丁度いいとばかりに何度も頷いた。 「では、次は祟られについてお話しましょう」
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