10話肉商店街《前編》マジカルパン編

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10話肉商店街《前編》マジカルパン編

 ー1ー  ーー202X年07月15日 p.m.4:35石山県野花市野花商店街ーー  蝉の合唱や真夏の炎天下でもぽつぽつと人だかりできる野花商店街。  自宅先からスーパーの交差点から二丁目の踏切渡り、灼熱の日差しを避けるため日傘を差して商店街をわざわざ訪れて焦茶のエコバッグを携えて夕飯の献立の材料を買い物する私こと八木 楓。  歳は16ほど。   黒髪の三つ編みのおさげであり家柄のしきたりで白粉肌で紅く染めた口紅を身につけて普段着は和服を着ている。  家柄のしきたりは抵抗はなく私にとっては問題なく受け入れられている。  私の姿も地元の住人達は見慣れた光景であるため目にかける者はいない。が、突如私は足を運ぶのやめてふと目に止まる。  逆に目をかけたのはある建物を寂しげに眺めてる顔馴染みの彼女と紫の洋服が印象的なおばあさんがいた。  私はふと気になり足取りは彼女達に向かう。 「どうかしましたか?」 「……楓さん」  声をかけてみると彼女達は気づいて軽く会釈した後、理由を詳しく教えてくれた。  ー2ー 「そうだったんですか……。この店も結構長くやってましたからね」 「まぁ、このご時世だから仕方ないわね」  私達が世間話してる目の前にある建物には張り紙で『閉店しました』とシャッター外に貼られていた。ここの店限った事だけでなく、いくつか数店舗同じ張り紙があった。 「ここだけじゃないみたいだね」   そう話す彼女は私の親友野花手鞠。  彼女が幼い頃、両親が同じ野花の名前のゆかりの縁でわざわざ野花市に引っ越した。  彼女自体も野花市自体愛着があった。  手鞠の指摘のようにこの商店街だけでなく他の県内でも似たような事例である。野花商店街は一応成功部類でもあるが参加する商店や飲食店内同士の競争が激しかった。それについていけない店は閉店か廃業する店が多々あった。 「私も永く生きたけど、古い馴染みのある店が消えていくのはさびしいものね」 「そうですね。この商店街も喰うか喰われるかの弱肉強食ですもんね……ただ」 「ただ?」 「ん?」 「……これよりももっと悲惨な商店街を知ってますよ」  一瞬ピリッと静電気が出して蝉一匹が鳴くの辞めて何処かへ飛んでいった。  手鞠は私に何か感じ取ったのか、おばあさんの影に隠れて縮こまっていた。 「……どこかしら?」  おばあさんは喉をゴクリと唸らして怪訝な表情で尋ねてきた。 「……肉商店街というのはご存知かしら?」 「え?まさか!?」 『肉商店街』と聞いた周辺の通行人はざわつきだした。  その商店街を聞いた地元住人達は口を言うのは恐ろしくて避けてしまうほどである。 「そのまさかです。私もその商店街によく利用してました。そしてこの商店街で起きた恐ろしい怪異談がありますわ。あなた達は私の怪異談を聞きたいかしら?」  手鞠達は静かに黙ってうなずく。 怪異談とは、平静から霊和の元号が切り替わる時にすでに幽霊やオカルトが日常的になった時代に怖い話や都市伝説や怪談をアレンジした怪異談が一部のホラーやオカルトマニアの間で流行っている。  そんな私も怪異談を語るほどの虜になっているわけね。  私の怪異談に聞きたいのか私の周囲に人々が集まり、私の口元が自然と動く。 「聞かせてあげる。野花怪異談『肉商店街』」  私の趣味は石山県に伝聞する野花怪異談を語る事ーー。  私の美声はどこか心地よく畏怖するものである。   ーー私の怪異談を聴いた者は不思議な野花を咲かせる。  ー3ー  ーー月野商店街 信田ベーカリー店内ーー  サッサッとホイサッサッと。  僕はむなしくゴミやホコリも塵がひとつもない清潔感あふれる店内でほうきを掃いてる。  むなしい~。  むなしすぎるぞ。  あ、ここで自己紹介しとこう。  僕の名前は信田信夫(のぶたのぶお)、47歳。  丸メガネをかけてるから視力は低いほう。  座右の銘は『客の信用は店の信用』て、僕の師匠の受け売りだけどね。 僕の店は昨年度末からオープンしたばかり。  僕ら家族はここに引っ越すときに不動産の言い分をほぼ信用して妻の反対を押し切りここの商店街に決めてしまった。  結果、地元住人も滅多にこの商店街を利用せずパンはほとんど売れず赤字ギリギリでなんとかやっている。  これが決めてなのか、妻さゆりは去年の夏頃、突然無断で娘の舞を残して出ていった。  はぁ~。前途多難である。  グ~。  と、僕の空き腹がなく。丁度店の飾ってる時計を見るとお昼の12時近くをさしていた。  僕は店にあるノリ牛をふんだんに使用したビーフコロッケパンをつまみ食いする。  (…ふむ、味は落ちてはないな)  僕の腕は多少自信がある。  僕が以前勤めていたパン屋は芸能人がお忍びで買うほどパン売り切れ続出人気有名店である。なので僕のパンを作る腕も折り紙つきであるのはずなんだけど、客は閑古長鳴くほど全く来てない。何がいけないのだろうか。  と、そんな疑念をよぎってると入店の呼鈴が鳴ったので慌てて来客の応対する 「い、いらっしゃいませ……なんだ舞か、?どうしたの」  お客さんかと思ったら娘の舞だった。彼女にはチラシ配りを頼んでいたが……どうやら走って来たのか息切れしてる。一体何があったのか。 「あー!?」  舞は僕に向かって叫んだ。注目したのは僕の持ってるビーフコロッケパンのようだ。  まさかこれに気づいて走ってきたじゃないだろうか? 「また店の物勝手に食べたらダメだって……。いやいや、そんなことはどうでもいい。お父さんちょっとすぐついて来て!」  舞は僕の腕を強引に掴みどこかへ連れてこうとする。 「ええっ!?ちょ、ちょっと!?」  僕は食べかけのビーフコロッケパンを頬張り、店のエプロンを着用したまま店を後にした。……と舞はすぐ店に戻ってきた。  そして店内に入りいくつかのビーフコロッケパンを抱えた後、店の戸締まり確認後施錠した。  (ちゃっかりしてるな)  ー4ー  ーー青田スーパーマーケット駐車場前ーー 「見て!あれ」 「ええ!?なにこの行列!」  舞がさす方向には長蛇の老若男女大行列。  その向こう先にはスーパーの前に堂々と駐車してある派手な大きな波と蟹の絵が目立つ塗装したキッチンカーがあった。  売ってるのはノリ牛ではなく何かの肉で挟んだサンドウィッチのようなもので『当店ご自慢の熟成肉サンド500円』と店の近くの看板に書かれていた。  その熟成肉サンドを購入した客は満足そうに夢中で食べていた。  (まずいな~。この辺りで店を構えてしまうと、ただでさえ少ない客が取られちゃうな)  と僕は懸念してそう思ってると。 「……許せない」  え?  舞が身体をわなわなと震えている。  舞がめちゃくちゃ御立腹なんだけど。  (そんなに怒らなくてもいいんじゃ……あれ?)  スーパーの店の店員さんがキッチンカーの前に何か運び出されている。  僕は目を凝らしてみると驚愕する。  よく見るとあのスーパーで売ってる家庭の食パンだった。 「まさか挟んでるパンの調達はそこから!?」  あれはたしかに主婦の家計には優しい値段だけど、それならうちの食パンも値段抑えてるし味と品質は保証ついてる。なんならうちから仕入れても全く問題ないぞ?しかもここから10分もかからない距離だし。 「私、頭にきた!ちょっと文句言ってくる」 「ま、舞!」  舞はのそのそとその店に向かう。  舞は家内に似て商売関してはうるさいのだ。  こういうセコくてザヤ稼ぐやり方は1番嫌いなタイプである。  この前スーパーで野菜売り場にあるきゅうりの長さで店員と揉めるほどだったからな。  舞が店に着いた途端、スタッフと何やら揉めているな。  僕は急いで舞の後を追う。  ー5ー 「あなたじゃ話にならないから、今すぐ責任者を呼んで!!」 「ですから、私たちはちゃんと許可を得てやってます!!」  舞と店の若い女性のスタッフ達と気まずい雰囲気だった。  僕はというと他の客と一緒に宥めるのがやっとである。 「そんなのはいいのよ!だからさっさと責任者だせ!ていうのよ!このわからずや」  両者から凄まじい睨み合いの応酬。  あわわわ。  まずいな大事になりそうな予感がする。  なんとかこの場を収める僕が場を収めなきゃ。  信田信夫、ここは漢気みせろ。ガツンと言うんだ。  僕は自分自信奮い立たせ場を収めるため彼女達に言った。 「きみ「おー?なんだ、なんだこの騒ぎは?食べ物に髪の毛とかついてあったのか?」た…ち」  と、タイミングが悪い。  スーパーマーケットからトレーに大量の食パンを運ぶ鉢巻巻いた青年がやってきた。 「店長」  どうやら、この店の責任者らしい。関係ないけど頭に鉢巻巻いて白の割烹着を着込んでるのはどういう組み合わせだろうか? あと、身につけてる腕時計は僕が以前欲しいと思っていた時計だ。いいな……。 「あなたが店長?こんなセコイやり方出して恥ずかしくないの?もっと商売としてのプライドないの?」 「セコイやり方……?商売としてのプライド……?」  舞に言われた店長は首を傾げた。女性スタッフがそばにやってきて耳打ちすると、店長はなるほどと理解して少し黙って目を瞑りながら頬を掻いた。 「えーと?何か問題ある?」 「大ありよ!!何でわざわざ近くのスーパーを利用するのよ!?私たちでさえ一から製粉からこねてパンで焼いてるのに!!」 「ええーー!?ダメなのか?むしろ駐車場借りてるから、その御恩を受けて食パン仕入れてるから、スーパーの店員さんも感謝してるし、お客さんもそれをわかった上で買ってるからな」  お客さん一同うなずく。  ふむふむ。なるほどそれなら利にかなってるし問題ないだけど。  ただ舞は納得してなかったというよりため息を吐いた。 「いい?それはあなたが言うように賢いやり方かもしれない。でも私が指摘するのは職人としてプライドよ!!あなたのやり方を認めてしまえばみんな手間をかけずに楽してやりはじめるわ!」  あー。始まったな。舞のお説教がな。  舞も一から材料を厳選するほど家内に似てるから味や品質にはかなりうるさいからな。 「そうか。言われた通りだな」 「わかってくれた?」  お?なんかいい雰囲気。 「そうだ。俺は全くプライドないし恥ずかしいとは思わないし改善する気もない。この世は金がすべてだ。金が物を言う正義だ」  と、舞は逆上して店長の首元の襟を掴んだ。 (あわわわ。まずいぞ)  そんな事お構いなしに店長はズバズバと遠慮なく言った。 「それにこの商売は弱肉強食の世界だ。強い者がルールを作れるのがこの世の中の理である」  店長が説いて笑った途端に舞のなかでなにか切れたみたいで店内は大暴れした。  このすぐの後、女性スタッフが警察に連絡して呼んでなんとか場を収めて、僕は関係者や商店街の人達などいろいろ謝罪して周った。  舞は一度暴れた店のスタッフには頑固として謝らなかった。先方が気にしなかったのが唯一の救いだった。舞はあの事件以来さらに店の手伝いに力を入れ込んだのは言うまでもなかった。 ー6ー  ホイサッサッとサッサッのさー、今日もむなしく1人ぼっちでほうきを掃く。  本日は今のところ客1人も来てない。  舞は学校から帰ってすぐチラシ配りや店の公式ホームページやSNSを立ち上げたが鳴かず飛ばずで効果はまだ得られてない。  その舞は早速、チラシ配りに出かけている。  この前のアノ事件でますます客足が遠のいたのは気のせいだと思う。  最近舞も泣きながら寝言で『お父さん、お父さん』と呟いて落ち込んでるので僕も何かしら頑張っている。  ちなみにあの鉢巻の店長さんにお詫びとしてこの前舞と外出して買った草山市名物草せっけんを配ったら店長よりも女性スタッフが喜んでた。  あと試しに熟成肉サンド買って食べたけど少し独特な味がして美味しかったな。ちなみに舞は一度も口にはしなかった。  来客がお知らせする入店の鈴が鳴るので応対する。 「いらっしゃいませ……舞か。で、そのとなりにいる外国人はどちら様?」  舞の左となりにコックの調理着を着た金髪の碧眼の異国らしきの美女がいた。 「お父さん紹介するね!この方はマリー・ジェルカスさん」 「ヤッホー、ヨロシクネ。信夫サン」 「はー。よろしく」  と、マリーさんは僕に握手する。  この流れがついていけない僕。 「お父さん。マリーさんすごいんだよ!あの世界マジカルパン大会で3位入賞したことあるんだから!」 「え!?ウソ!!」  マジカルパンというのは動物の手形をモチーフに見立てたパンだ。正確な形や具材は決まっておらず各自好きなオリジナルパンが作れる。一定のファン層もある人気のパンだ。  マリーさんが入賞した公式大会のスマホスクショを見せてくれた。見たらたしかにマジカルパンで3位で入賞したことあるみたいだ。 「お父さん、一生のお願い!!マリーさんうちで雇っていいでしょ?」 「ワタシカラモオネガイシマス」  僕は少し悩んだが彼女の腕と人柄を全面的に信用して雇う事にした。 「いいよ。雇うよ」とそれを聞いた舞とマリーさんは喜びのハイタッチしてフラメンコダンスをして踊った。  はは、賑やかになりそうだ。 『……あなた……』  誰かに呼ばれたと感じた僕は周囲を見渡す。  そっと妻の声したのは気のせいかなと感じた。 ー7ー  滝のように打たれた感じのどしゃぶり雨。  暗い雨雲の中、雨傘をさした私、楓と親友の1人星田星夏(せいか)は同じ高校に通うクラスメイトの友人であるさゆりさんの店へ向かった。   店に着いた私達はさした雨傘を水をはたいて置き場所にさす。 「あー。濡れましたわ」 「今日の天気、降水確率30%て言ってたから」  私達はカバンの中からタオルを取り出し濡れた箇所を拭く。  ここでも私は白粉は外せないのか手鏡で自分の顔の肌をチェックはかかせない。 「いらっしゃいませ」と出迎えてくれたのは小柄な女性店員。  歳はかなりいってるがまだ肌は若々しく楓達と同じ年頃の少女と間違われてもおかしくはないと本人談 「こんにちわ、さゆりさん」 「こんにちですわ」 「あら、八木さんと星田さんじゃない。こんにちわ」  私は軽く会釈して、星夏は元気よく親指を立てた。  さゆりさんはそんな彼女達を見て微笑んでいた。 「丁度よかったわ。マリーさんが出来たてのパンを焼きあがったところよ。あなたたちも出来たて食べるわよね?」 「はい」 「もちのロバのパンの耳ですわ!」  早速、私と星夏はトレイとトングを持ち出来たてのパンを待った。  ふと私は壁の縁に飾ってある家族親子3人連れの写真を見て言った。 「さゆりさん。信夫さんの様子はどうでしたか?」  さゆりさんは出来たてのパンを店のトレーに運んでトングを使って売り場にパンを並べて答える。 「この前あの國へ旅立ってから、今でも私の事を舞だと思っているわ。たまに私のことを気にしてちょくちょく見にくるわ。舞が生きてれば貴方達と同じくらい歳ね」 「そうですか」 「あの人たらすぐ誰でも信用するから私が舞の振りしてもころっと騙されるからね」  さゆりさんはパンを並べ終えるとじっと並べたパンを見つめる。どこか遠い目をしていたので私はクスと微笑んで言った。 「信夫さんらしいじゃないですか」 「え?」 「客の信用は店の信用。あの人の信用も続いたのはさゆりさんが支えがあったらこそですよ。きちんと届いてますよ、私たちの信用も」 「……そうね」  私の優しい言葉でさゆりさんは耐え切れず一筋の涙があふれてきた。 「さゆりさーん。お会計お願いしまーす♪」  星夏は事情察したのかすでにいくつかのパンをトレイに載せてレジにいた。 「はい、はい。今行きまーす」  さゆりさんは涙を裾で拭いてレジに向かう。  私もパンを選んでトレイに載せていく。  このほんのりと漂うパンの充満する匂いは店内にいる私達にとって充分な心の暖かさを満たす空間だったから。  ー8ー 「以上肉商店街終わりよ」  私が怪異談を披露した後は嵐が過ぎ去るような寒気がするのだ。  みんなは私の怪異談を聴き入ったのか次第に拍手する。 「いやあ~珍しいもんを聴かせたよ。丁度俺の果物はいいぞ!熟してるから新しく仕入れたばかりだからな」 「おいおい!そりゃあないぞ?さっき肉なんちゃら聴いてたろ?肉だよ!に・く・だ。ささ。お客さんもそんな怪異談聴いてたら肉が食べたくなったろ?うちは安心してな#あちらの肉__・__#は仕入れてないからな。あははは」  私の怪異談を便乗して商店街の店の人たちも客寄せして集客を図ろうとしてるようだ。 「たくましいね。あれ?あのおばあさんは?」  そう、私はすでに気づいてたから。 「手鞠も視えるのね」 「え??え??な、何その重要な重大な発言!!え!?え?えー?ちょ!?まって!」  この石山県内ではオカルトや怪奇現象など遭遇するのは絶えない。  石山県各地には彼らが少なからず存在する。  きっとあなたも視えるわよ。  石山県に来たらね……。  ーー????ーー  私たちが購入したパンを食べ始めていると店内の蛍光灯が点滅してシャットダウンされた。 「停電かしら?」 「真っ暗ですわ」  ふとさゆりさんが店の玄関先に気づいた。 「あら、お父さん来てたの?いらっしゃい」  かすかな落雷の明かりの店内に青白いメガネをかけた男性が出現して立っていて、その彼の身体周りは雫が垂れて濡れたままで地面には水溜りができていた。 『……舞……』  彼はずっとさゆりさんを見つめていた。  肉商店街(前編)マジカルパン編 完  
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