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12話火の用心棒
ー1ー
ーー野花幼稚園ーー
「みんなー。今からお姉さん達が火の用心についての怪異談のお話を聞かせてもらうよー」
保育士の号令のもと園児たちは「はーい」と元気よくあいさつする。
「よろしくね。みんな♪」と自分自身似た手作り人形の手袋をはめ込み巧みに操る黒髪おさげ美少女私、八木楓。今日もしきたりに従い白粉肌に花柄の和服を身につけている。園児たちは私の姿を見ても動じなかった。私の家柄のしきたりは石山県民ならば誰でも知っている一般常識である。
この幼稚園を訪れたきっかけは私たちの部活動の一環として人が集う場所に出向き怪異談を広めるためでもあった。
「ケッ!怪異談なんて子供騙しじゃないか?」
生意気な男子園児は暴言を吐いたが私は平然とクールを装いクスクスと笑う。
「あらあら、さとしくん。今のであなたのお家は火事になりますよ」
それを聞いたさとしは戸惑ってしまう。
「う、うそだ!オレはちゃんと火事にならないよう母ちゃんが火元とかちゃんとチェックしてるもん」
やはり子供なのか知らないだろうな。火の出る怖さに。
「そうかも知れないわね。でもね、火事には見えない火元で火事になるのよ」
何もない場所からひんやりとした冷たい風が吹いた。
室内で園児たちは「さむーい」と言ってブルブルと震えてくしゃみする。保育士は慌ててエアコンの暖房を入れる。私たちもガクブルであったから助かった。
「詳しく聞かせてもらうじゃないか」
謎の初老の男性が室内に乱入した。
彼はこの幼稚園の園長先生である。
彼は私の追っかけファンであり、私の怪異談ファンクラブの会長になってるとかないとか噂がある。しかもグッズや期間限定の写真集とか、私の肖像権はお母様が勝手に許可したと言うから私としてはありがた迷惑だが、その分小遣いが増えるので暗黙の了解となっている。
と、まぁ。みんながお待たせしてるので怪異談披露しよう。ゲフン。
「聞かせてあげましょう。人形怪異談劇場『火の用心棒』はじまるおーー♪」
私は可愛らしい声色を使って人形巧みに操りながら怪異談を語った。……園長先生が実際に燃えてるのはキノセイだろう。
ー2ー
ーー石山県野花市紀野田町 a.m.12:05ーー
カーン、カーンと俺は拍子木の音を鳴らす。
「はぁー。寒いな(クチャクチャ)」
冷たい風が流れる秋の季節。
俺はいつも通りガムを噛みながら昼間の火の用心を行う。
俺の名前は葛木葛尾。
職業エリート無職、歳は28。
この町の出身である有名政治家葛木玉男の息子である。
住居は江戸時代から先祖代々継ぐ広くて古い屋敷。
屋敷のみんなは俺のことを親しみ込めて坊っちゃんて呼ばれている。
この町では火の用心やるのは夜間だけではなく昼間も定期的にやる。町内で町おこしや祭りをするくらい根付いている。なので老若男女問わずこの時間帯に火の用心してる奴らも多い。
(サッサッサササッ)
ただ、火の用心してる奴の中には一部変人がいてちょこまか動きまわっている。俺のところにもそいつが来たので無視して火の用心を続ける。
カーン、カーン。
(サッササッ)
「(クチャクチャ)」
カーン、カーン。
(ササッサッササッサッサ)
「(クチャ)……」
カーン、カーン。
(サッササッサッサッサッササ)
「(イライライライライライラ)」
カーン!
(サッサササッサッサッササッサッ)
「いい加減にしろ!なんでこの真昼間から過剰に周囲を警戒するんだよ!?さっきから、チョロチョロ俺の前に動き回ってウザいんだよ!(クチャクチャ)」
俺はつい我慢出来ず怒鳴った。
サッとそいつは少し警戒を解きながら、俺に近づき進言した。
「坊っちゃん!この辺りでは連続放火魔が出没してます!いつ狙われてもおかしくありません」
俺に忠告した黒い甚平着た中年のおっさんは火野木。
火野木は親父が雇った火の用心ための用心棒であり、最近この町で連続放火魔が多発しているので俺の屋敷周辺近くにテントを張って寝泊まりしながら警戒している。
「あのさー?こんな明るい真昼間で住宅街にいたるところに監視カメラが設置されて常にパトカーがパトロールしてりゃ。連続放火魔もビビって来ねーよ!」
と、俺は鼻がムズムズした途端でかいくしゃみをした。
「坊っちゃん!」
火野木は慌てて俺の足元を近づいて何やらハンカチで摘む。何かと思えば俺の噛んでたガムがくしゃみでポロっとこぼしたようだ。
俺はズボンのポケットから新しいガムを取り出して口に入れる。
「気をつけてください!こんな所を見られたら、我々もただじゃすみませんよ?」
火野木は青ざめてるようだ。
そんなに気にするほどだろうか。
とりあえず謝ることにした。
「あー、わるい、わるい。気をつけるよ(クチャクチャ)」
俺はガムを噛みながら、火の用心を再開した。
「……坊っちゃん、いつか火事に巻き込まれますよ」
それを聞いた俺はフッと笑った。
(俺が火事に巻き込まれるだって?)
ありえなかった。なぜなら俺の屋敷には火災報知器やスプリンクラーが防災完備してる。俺の親父が過剰に火事の火元を警戒して金をかけた屋敷だ。そして放火魔対策に防犯ベルや常に24時間監視カメラが見張ってるので放火も迂闊に手を出せないほど防犯は完璧である。
ま、万が一の事もあるので話半分聞いてやることにした。
「はいはい、わかりましたよ。(クチャクチャ)一応火元を警戒すればいいんでしょ?ま、使用人にはきつく後で(クチャクチャ)注意するよう言っとくからさ」
「……あともうひとつだけ」
「なんだ?」
「ガム噛みながら火の用心するのはおやめください」
俺は舌打ちした。
少しいらついた俺は噛んでたガムを道端に吐き捨てた。
「坊っちゃん!?」
俺はさらに靴で地面にねじ込んだ。
「これでいいんだろ?」
俺はニタニタと笑う。
火野木は慌ててハンカチでこびりついたガムを削り取る。
(うわぁ。そのハンカチべちょべちょだなぁ。俺にそんなもん近づけんなよ)
俺は火野木から少し離れて廻った。
ー3ー
ーー葛木屋敷邸p.m.1:05ーー
俺たちは昼の火の用心廻りを終わって屋敷に帰宅した。
「坊っちゃん、昼間の見廻りお疲れ様でした。わたしはこの屋敷の周辺を警戒してますので何かあれば連絡ください」
「あー。わかったわかった。さっさと行ってきな」
俺は火野木を虫扱いみたく手で払うと、カサカサと警戒しながら足早に去った。
(あいつの前世はきっと虫だな)
帰宅早々に俺は思わずあくびしたのでひと眠りしようと、3階にある自分の部屋のベッドに寝転んでそっと目を閉じた。
「ZZZ」
ーーp.m.8:00ーー
「では、参りましょうか」
「……」
俺はどうやら疲れたのだろうか、そのまま火の用心の夜間時間まで居眠りして晩飯を食べ損ねてしまった。
グーと俺の空き腹が鳴った。
「腹減った…。火の用心する前にバナナでも摘まんでればよかったぜ」
後の祭りである。
(カサカサカサカサ)
そして黒い虫が無視をさせてくれない嫌がらせ。
俺はそれをみて余計にイライラしていた。
火野木は「火の用心最終日なので今晩は真面目にやってください」とガムを取り上げられてしまった。
こっちは腹が減ってるので八つ当たりしたくなるが、今回はクソ真面目にヤケクソの火の用心を決行した。
カーン!カーン!
「ひーのーよーじーん!」
(カサカサカサカサ)
カーン!カーン!
「ひーのーよーじーん!」
(カサカサカサカサ)
俺の周辺にいる火野木は相変わらず夜間でも過剰くらいに警戒してる。
俺たちの光景を道端でひそひそと通行人や火の用心してる奴らからも聞こえる。
それが余計に力を込めた。
そんな時に遠く離れた道端に挙動不審な黒ずくめの服装した黒マスクと黒サングラスを身につけてる男がゴミ袋を持ち警戒してる。
(ん?こんな時間帯にゴミ出し…)
そして黒ずくめの男が町のゴミ捨て場にゴミ袋を置いて中を開けて何やらカサカサといじっている。
(ん?あいつ!)
黒ずくめの男は隠し持ってたライターで火をつけた。
「火野木!あそこにいる怪しい男!ゴミ捨て場に火をつけたぞ!」
俺は火野木に放火魔を教えた。
「坊っちゃん!今すぐ捕まえておきます」
どうやら放火魔も俺たちに気づいて逃走した。
勢いよく燃え上がるゴミ捨て場。
俺は急いでゴミ捨て場に向かい着てたコートで火の消化してなんとか消し止めた。
放火魔は火野木がすぐ捕まえてくれた。
この騒ぎにより人が集まり、しばらくするとパトカーと消防車がやってきた。
このとき俺は安堵した。
ー4ー
ーーp.m.9:32ーー
「ご協力ありがとうございました!」
俺たちは連続放火魔を捕まえて犯行阻止したので警官達が感謝の敬礼をしてくれた。
消防車は消化確認後、現場から消えてパトカーは連続放火魔を乗せて走り去った。
火の消化した俺のコートはボロボロで結構お気に入りだったので少しショックだった。
「あ、あの格好よかったです」
ふと目の前に火の用心してた若い女性たちが集まっていた。
彼女達は俺たちの勇敢な行動を一部始終見てたらしい。
(まじかー!やっぱ。俺格好いいとこ見られたかー)
俺は鼻の下を伸ばしてた。
「握手させてください」
と、1人の若い女性が言ったので俺は手を差し出そうとするが、すり抜けてしまう。
「え?え?」
俺は驚く。
どうやら、俺じゃなく火野木だった。
火野木には若い女性だけではなく、老若男女の人だかりが出来てる。
火野木自身も満更ではなかった。
俺の周りには誰も気にかけてくる奴はいない。
(ふざけやがって)
カラン!
「坊っちゃん!」
俺は拍子木を道路に叩きつけた。
投げつける音に気がついたのか、みんなは怪訝な表情で俺に注目する。
俺は頭にきてたのでこの辺の住人に聞こえるようぶちまけてやった。
「どいつもこいつも!クソだな!!俺は連続放火魔を見つけて犯行阻止したのは俺だぞ?俺の父親は葛木玉男だぞ!!おまえらみたいなそこら辺とは違うんだよ!あとこのコートいくらしたとおもんだよ!!ま、どうせおまえらは価値がわからないんだろうな?あははは」
「…………………」
みんなは一斉に黙り込んでしまった。
「おい!!なんとか言えよ!」
火野木に握手を求めた若い女性1人が俺の目の前にやってきた。
「な、なんだよ」
女性は不気味に無表情で黙ったままだ。
突然、持ってた拍子木を叩き始めた。
カーン。カーン。カーン。
適度にリズムよく叩き続ける。
カーン。カーン。カーン。
周辺にいた奴らも女性に釣られて次々と拍子木を叩き始める。
カーン。カーン。カーン。
「……ッ!?」
俺は腰が抜けてしまった。
その音にかぎつけてきたのか住人たちがぞろぞろと俺たちの前に取り囲んで無表情で意味もなく拍子木を叩き続ける。
カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。
数百人を超える集団が俺たちに向かって拍子木を一定のリズムで叩いてる。
カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。
ーーー謎の混沌儀式。
俺は何の光景を見せられてるのか、全く理解不能だった。
「いけません!坊っちゃんここは急いで去りましょう!!」
火野木は腰を抜かしてる俺を起こして急いでこの場から抜け出した。
ー5ー
ーー葛木屋敷邸 p.m.10:35ーー
俺たち急いで屋敷戻った後、火野木は屋敷周辺の寝ずの番を行い、俺は冷蔵庫にある適当なつまみを腹に入れてそのまますぐ床についた。
ドンドンと俺の部屋から大きな叩くノック音で俺は目を覚ました。
『坊っちゃん!ここを開けてください!』
俺はドアのロック解除した同時急に慌てて火野木が俺の部屋を勝手に入り込んだ。
「な、なんだよ!?一体どうしたんだよ?」
「坊っちゃん!大変です!火事です!!」
「バカな!!火災報知器とか鳴らなかったぞ!?何かの間違いじゃないのか?」
「それがわたし達にもわかりません……それよりもあれを見てください」
火野木がさす降り階段にはもうすでに火の手が来ていた。
「…嘘だろ」
俺は絶望していた。
もう逃げ道は塞がれた。
もうお終いだと思った時に俺の腕を火野木が掴んだ。
「坊っちゃん!もう時間がありません。すでに屋敷にいる者は全員避難しました。あとは坊っちゃんだけです。今から逃げましょ!」
「に、逃げるたって?お前!ここに逃げ場なんてないぞ!?」
「大丈夫です!ここの窓から出ればいいです!しっかりつかまってくださいね」
「え?ちょっと!?離せ!!うわわわ」
俺たちは3階の部屋から飛び降りた。
ー6ー
ーー同場所 a.m.0:30ーー
真っ赤な炎に包まれる俺の屋敷。
屋敷の外にいる俺たちはただ燃えてるのを黙って見てるしか出来なかった。
騒ぎに聞きつけて消防車が必死に消化活動してる。
屋敷の前にはかなり野次馬が出来ていた。
使用人達はひそひそと話し合い。
おふくろは泣き叫んで火野木が宥めている。
事務所から急いで駆けつけてきた親父はスマホで誰かと必死に話しかけてる。
俺は泣き崩れていた。
「死ぬかと思った。なんで俺の屋敷が燃えるんだよ!」
俺はやけになって屋敷に生えてる芝生をいくつかむしりとった。
俺はとてもいたわれない悔しさで嗚咽がでたり叫んでいた。
そこにカーン、カーンと拍子木が鳴らす音が何処からか聞こえる。
(こんな時間帯に火の用心だと…?)
俺は周囲をよく見渡した。
そいつはすぐ見つかった。
そいつは場違いな華やかな花柄の和服を着た白粉肌の黒髪おさげ少女。
彼女は拍子木を鳴らしながら特定の言葉を繰り返して火の用心している。
カーン。カーン。
『余計な言葉の矢の火口にも~』
カーン。カーン。
『射る人の住む屋敷炎上なる災いの元~』
その少女は火の用心をわざわざ俺たち屋敷関係者全員にわざと見せつけるようにその言葉を繰り返しながら前に通過してどこかへ去っていった。
少女が去った後、屋敷関係者全員が俺の方に注目する。
「…………」
無言の圧力により俺は罰悪そうにしてると、火野木は俺に近づいてそっと肩を叩いた。
「……言った通りになっただろう?」
その作り笑顔で囁いたあの言葉。
たしかにそうなったとも言える。ただ、そいつに対して何も言い返すことは出来なかった。
ーー十年後ーー
「さとしー。火の用心行ってきてー」
母親は台所キッチンで炒め物を調理していた。そんなさとしは居間でテレビゲームをしていた。
昔、幼稚園で火の用心棒の怪異談を聞いてたが彼はそんな迷信も信用せずすっかり忘れかけていた。
「ええー!?嫌だよ。別に火事はそこまで頻繁に起きるもんじゃねーだろ!!それにそんなよくわからないもんやる必要性あるのかよ?ちゃんと火元、気をつければいいだろ?」
「………」
母親は黙ってしまった。
するとさとしがやってるテレビゲーム画面がプツンと映像が切れる。
「あれ?故障かな?」
さとしはテレビゲーム機を調子をよく見る。
するとテレビ画面の映像が突如映しだされる。
「だれ?」
画面がズームアップして黒の甚平着た中年男性が拍子木を持って叩いてる。
「ひーのーよーじーん。ひーのーよーじーん」
「!?」
母親が調理しながら火の用心と特定の言葉を何度も繰り返している。
と、どこからか火の用心とエコーに反響して木霊する。
「ひーのーよーじーん。ひーのーよーじーん」
「お!?おい。なんだよお前ら!?」
さとしの家から複数の住人達が押しかける。そしてしばらくすると家が住人溢れるまでさとし中心に取り囲む。
「ひーのーよーじーん。ひーのーよーじーん。ドバーーーーーーーー」
住人達の口から拍子木が大量に溢れてきた。
「う、うわーーーーーーー!!」
さとしはこの人々の異常さに恐怖のあまり叫び続けて、しばらく彼の周辺には拍子木が鳴り響いてた。
火の用心棒 完
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