kira-killer

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 自然と話が途切れて、わずかな時間が過ぎた頃。ぽつりと「ありがとう」と呟くと、キララは「えー?」と言いながらこちらに身体を向けてくる。わたしも夜空にそっぽを向いて、キララのほうへ寝返りを打つ。 「一緒に流れ星観よう、って言ってくれて」 「んーん。どうせ全部終わるんなら、静かな場所で、好きな人と一緒にいたいじゃん」  そうだね、と口に出しかけて、ふと考える。  好きな人。love、like、あるいはその両方。  だったら、キララは今、どうして――。  おそるおそる、訊ねた。 「キララ、そういえば、彼は?」 「……あー、あいつね。地下にいるよ」  キララには、最近付き合いはじめた彼氏がいた。バスケ部の主将で、石を投げれば当たるようなヒョロ長の短髪が印象的な男子。そういえば、彼の親は国家公務員のお偉いさんだったはずだ。いち早く地下へ逃げおおせたのも、そんなお家柄のなせる業というやつだろうか。 「やっぱ口だけだよ、みんな」  目を伏せながら、キララは吐き捨てるように呟いた。星の光が落とす影のように、暗い声で。 「実はチサに連絡する前、あいつに連絡したんだ。ごめん、あたしってくそ卑怯だよね」  そんなことはない。一般的には友達より恋人のほうが、高い優先順位になるのは自然だと思う。キララがその原則に当てはまる子なのはわたしも知っていたから、今更目くじらを立てるつもりはないし、わたしにそんな権利はない。 「その穴ぐらから出てきて最期まであたしと過ごしてよ、って送ったら『今から外に出てくのなんて無理だ』って。ずっと一緒にいてくれるって言ったくせに、って送ったあとはもう既読無視よ。なんなん、って感じ」 「まあ人間、本性が出るのってこういう追い詰められたときだから」  世界を包み込もうとしている絶望感と、そんな世界すらもうすぐ終わるという圧倒的な現実。混乱で頭がぶっこわれてしまってもおかしくないのに、わたしはどうしてこんなフラットな気持ちで、キララの恋愛相談に乗っているのだろうか。  それはよくわからないけど。 「――そう考えるとさ」  わたしが言葉を並べはじめたと同時に、キララの瞳がこちらを向く。その目尻に光るものはラメではなくて、どうやら涙のようだった。 「気づいたことがある」 「なに?」 「追い詰められたときに本性が出るってことは」 「うん」 「わたし、キララのこと、めっちゃ好きなんだよ」  夜空がぶち割れて青空が顔を出してもおかしくないくらい、突拍子もないことを口走っていた。その事実はもはやどう取り繕おうと覆ることはないし、キララもこれまで見たことがないような呆けた表情を浮かべているけれど、わたしはするすると言葉を滑らせてゆく。
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