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「人間っていつか死ぬよ。それはそうだけどさ、その寿命が全員等しく今日まで縮まったわけじゃん。その瞬間まで傍にいてほしい人って、選べるなら自分で選びたいし」
「あー、ね」
キララは心なしか、たじたじとした表情になっているけれど、わたしはもう言わずにはいられない。どうせ終わるなら、悔いを残さずに終わりたい。地下にいたらきっと悔いばかりが残ったまま、朝のラッシュの電車みたいにすし詰めで死ぬ羽目になる。
せっかくそうはならずに、大切な存在と二人、水入らずで最期を迎えられるのだ。こんなチャンスすら活かせないなら、いつ、どこで死んだって一緒だと思う。
「わたしは、嬉しい。キララの中でわたしの位置が、彼氏のあとの二番手でも別にいい。キララがこうやって傍にいてくれる中で全部終わりになるのなら、こんなに嬉しいことないなって思った。家族でも他の誰かでもなく、わたしはキララがよかった。ただの友達じゃ片付けられない。それくらい、キララのことが好きになってるんだって気づいた」
熱弁を振るうことにばかり意識が行っていて、わたしは途中からキララが手を握ってくれていたことに気が付かなかった。わたしよりもすべすべして温い、ほんの少しだけ大きな手が、絶望の代わりにわたしの手を包み込んでいる。
しばしの沈黙ののち。
「チサも卑怯だなあ」
くくっ、と笑うキララの吐息が、夜のぬるい風にのって届いてきた。さっきより、空の星の輝きが増したように思える。まだ早い。あともう少しだけ、わたしたちに時間を与えてほしい。
「男に捨てられて傷心中のあたしに、そんな熱い気持ちを伝えてくるとはねえ」
「だって、死ぬ瞬間に(あー、やっぱ言っとけばよかったな)って思いたくないでしょ」
「まあ、そっか」
キララは身体をもぞもぞと動かして、さらにわたしのほうへ近づいてくる。最終的にはおでこがくっつくところまでわたしに身体を寄せたキララはやがて、そっと呟いた。
「あたしもチサのこと、好きだよ」
わたしは結局、異性と交際関係になることのないまま、短い人生を終えようとしている。
しかし、キララの言葉によって身体中が愛情で埋め尽くされた今となっては、そんなものは最初から不要だったのだ……とさえ思った。誰かと身体の一番深いところで気持ちを通わせることができた。それを経験できただけでも、きっとわたしの命に意味はあった。
最後の最後で、これこそ自分の命の意味だと言い張れるものを手に入れられた気がする。
素直に、感謝の言葉を口にした。
「ありがとう」
「――実は、ずっと前から、そうだったんだけどね」
完全に脳みそが沸騰していたら、その言葉を聞き逃していたかもしれない。
唐突なカミングアウトが耳に引っかかったわたしは、思わず「え?」と訊き返した。
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