同時多発転生したチート勇者たちが攻めて来て魔王軍はパニックです

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「四天王が全滅・・・だと?」 魔王は玉座から思ず身を乗り出した。 ドクロをモチーフにした鎧を纏い、スラリとした高身長。人間と似た形状でありながら白銀の長髪から鋭い二本の角をのぞかせている。 鋭い眼光と口元の牙。あふれ出る圧倒的な魔力は見る者すべてを威圧するがーーーー唐突にもたらされた報告にこの時ばかりは声が上擦っていた。 「はい・・。私の千里眼でもその様子が見えました。すでにその話は出回っており城内もパニック状態に陥っています。」 闇色の衣に身を包んだ少女、ヤミヨミが宙に浮いた紫に光る水晶玉に手をかざしていた。 目元は黒いスカーフに覆われており中央には一つ目のモチーフが描かれている。ゆるくウェーブのかかった黒髪が魔力によって肩に舞う。彼女は魔界の巫女として魔王に世界の様子を伝える役割を担っており、魔王と幹部をつなぐ連絡役でもあった。 玉座の間は魔王城の最奥部にある。魔王が軽く魔力を放って城内を観察すると各所の動揺が伝わってきた。魔王城を守る魔物たちも相当の力を有しているが四天王はそれ以上だ。全滅のショックは相当のものと言えよう。 「ヤミヨミ、もう少し詳しく聞かせてくれ。四天王ほどの強者がどうして。」 「承知しました。ではまず北を支配していた『火のインフェル』からです。彼は異世界より転生してきたという北の勇者に仕留められました。何でも『無駄スキル<笑う>を極めたら暗黒スマイルで炎の魔物を一瞬で凍らせてしまったんだが』とか。次に東の海に陣取っていた『水のアクアリウス』ですが、こちらは東の勇者にやられました。これも転生者で『水の女神に溺愛された結果ボクのためにと海が全部聖水になって魔物が浮いてる件』ということで。南の『風のデルストーム』は同じく転生者の南の勇者に。こちらは『空飛ぶ魔法で散歩するだけのゆったりライフを満喫したいだけなのに邪魔してきたヤツ返り討ちにしたら魔王軍の幹部だったらしい。知らんけど』とのこと。最後に西の『土のフォレスタン』は西の転生勇者に。『庭師だけど転生先で除草剤撒いたら土の四天王死んだ』とのことです。勇者たちは四天王を倒した後、モノのついでということでこの魔王城に向かっています。」 魔王は苦悶の表情を浮かべて頭を抱えた。 なんだそれは、とひとり毒づく。異世界の存在は把握しており、ときおり転生者が現れること、チートと呼ばれる能力を有してることがあることは承知していた。彼らは何かと身に起きた状況を長めのワンフレーズで、且つすっとぼけた言い方で説明してくる"癖"も知っている。しかしまさか、こんな同時にやってくるとは。 魔王は首を横に振り、自らに言い聞かせるように姿勢を正した。 「・・・いや。まだだ。四天王がやられても私には秘密兵器がある。我が魔力を密かに蓄えていた最終破壊兵器『ナイトメア・カタストロフ』だ。ククク。あまりに強力すぎて封印していたが今こそ使う時が来たようだ。勇者どもがここに向かってるなら好都合。一網打尽にしてくれる!ヤミヨミ、兵器の場所は把握してるな。転送させるよう手配を」 「魔王様、恐れながら報告はまだありまして。」 ヤミヨミは唇をかすかに噛みしめ、申し訳なさそうに言った。 「『ナイトメア・カタストロフ』は北北東の勇者に破壊されました。」
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