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魔王は玉座からズルズルを身を滑らせた。
慌てて差し伸べてきたヤミヨミの手を借りて何とか身体を持ち直す。渋い顔をしながら「続けてくれ」と力なく言った。
「例によって北北東の勇者も転生者です。『コミュ障わたし、転生先でも山奥に引きこもろうとしたら魔王の兵器を見つけてたけどたまたま魔力無効の特攻持ちだったので破壊しておいた』ということでした。この勇者も『そしたら勇者ともてはやされて勝手にパーティ組まされたけど意外と心地よさげなメンバーであとみんなイケメンだし流されるまま魔王倒しに行ってみる』と、こちらに向かってます。」
「北北東と言ったな。まだいるのか。」
「お察しの通りです。北東の勇者、東北東の勇者、東は飛ばして東南東の勇者、南東の勇者、南南東の勇者・・・続けますか?」
「いやもういい。どうせ四天王と言わずとも、各地に配置した魔物を倒してここに向かってると言うんだろう。」
ヤミヨミは黙ってコクンと頷いた。
「冷静になろう。チート能力を持った多数の勇者がここに来る。迎え撃つか、あるいは戦略的撤退も選択肢として排除はしまい。いいかヤミミミ、こんな時にパパパパパニックになってはいけませんぞなふ」
「魔王様もお気をたしかに。一度深呼吸を。」
魔王は大きく息を吸って、ゆっくり吐いた。
「いやすまない、私は大丈夫だ。それよりまずは場内の混乱を収束せねばな。防衛隊長の三魔人を呼んでくれ。攻めこそ四天王に譲ることが多かったが、守りとなればあいつらの実力も引けをとらない。そう、『赤の魔人レッドホン』『青の魔人ブルート』『黄の魔人イエロス』なら」
「彼らは真っ先に逃げました。」
「呼び戻せぇッッ!!」
魔王が汚い言葉で罵っている傍らで、ヤミヨミは呪文を唱えながら水晶玉に魔力を込めた。鈍く放たれた光が徐々に強まり、水晶玉に大型な人影が揺らめく。パっとひときわ輝いたところで三魔人の姿が像を結んだ。
「あっ」
彼女が小さく声をあげると、魔王はひじ掛けをバンバン叩くのをやめた。
「どうした。何が見えた。」
ヤミヨミは口元の端を下げ、ためらいがちに言葉を発した。
「空に逃げたレッドロンはペガサスの加護を受けた『空の勇者』に、深海に逃げたブルートは人魚族唯一の男子『海の勇者』に、地底に逃げたイエロスは洞窟で修業していたドワーフ娘『大地の勇者』に、それぞれ瞬殺されました。」
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