同時多発転生したチート勇者たちが攻めて来て魔王軍はパニックです

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「『転生先が奴隷だったけど家主から世話を押し付けられた汚い仔馬を丹精込めて育てたらペガサスだった話する?』『100年に一人の男子ともてはやされてるけど綺麗な人魚のお姉さんたちに囲まれてハーレムしたいという下心しかなくてすいません』『せっかく力持ちのドワーフに転生したのなら女でも世界最強を目指したいッッ魔物は片手でポイーで』だそうです。」 魔王は玉座にもたれかかり乾いた目で宙を見つめていた。 「なぜ勇者どもはいちいち癪に障る言い方をするのか。」 「私に言わないでください・・・・。」 両手で顔を覆ってゴシゴシとこすり、 「さすがに私でも今回が分が悪いと言わざる得ない。全員撤退の指示・・と言うのも遅いようだな。城内にほとんど気配を感じないあたり、パニックでみんな先に出てってしまったか。まぁいい、私たち二人も退こう。今後の策を練るから引き続き外の様子を探ってくれ。」 と、魔王は指示を出した。 「・・・・」 「なんだ、まだ何かあると言うのか。」 ヤミヨミはうつむき、口を厳しく結んでいた。目を覆うスカーフの下には沈痛な表情が浮かんでることが容易に想像できた。 「退路が・・・・ありません。」 「はぁ!?」 声が裏返った。 よくよく考えると徐々に、真綿で首を絞めるように、その意味が脳に染みわたった。陸は東西南北、少なくとも16方位から勇者が攻めてきている。空、海、地底にも勇者がいる。包囲網は確実に迫っているだろう。つまりは八方ふさがりだ。 「いやしかしだな、ここは世界の深淵とも言える場所だ。瘴気に満ちた暗黒の森にも囲まれてるし、そうやすやすとは。」 「勇者一行はここに向かうにあたって次々と合流してるようです。その中には『瘴気を食うなんて正気か(笑)って下らんダジャレで馬鹿にしてきたヤツらが瘴気に飲まれてるけどもう遅い。オレはいま瘴気食い尽くし系勇者として暗黒の森の浄化活動に忙しいのでね』というのと、『軍司に憧れて妄想で魔王城を攻めるシミュレーションしてたら異世界でどハマりして転移術を駆使した行軍で魔王城目の前で拍手喝采。天才とか褒められるけどこんなの戦術の初歩レベルなんだよなぁ』というのが。もう、この城は囲われてます。」 言葉にならず口をパクパクさせるしか反応できなかった。 ヤミヨミが泣きそうな声で言う。 「魔王様、どうしましょう・・・・」 あらためて場外まで魔力を飛ばすと、確かに大量の勇者たちの反応が。続々と増え続け、森を抜け、敷地内に、城門に。城から飛び出た魔物たちを軽々と踏み越えて。 魔王は頭の中が真っ白になった。 「ゆ・・しゃ・・・・」 「えっと、魔王様?」 「ゆうしゃゆうしゃゆうしゃ・・・・」 「魔王様、しっかりしてください!」 「ゆうしゃ?・・ゆうしゃぁ・・・・・・・ハッ!?・・・そうか、ゆうしゃ!ユウシャ!!」 「魔王様!?魔王様!!!」 「あははははは。そうだよヤミヨミ、勇者だよ勇者。その手があったか!ふぉおお!ユウーーーシャアーーーーッッ!!!」 「なんということ。魔王様までパニックに・・・・・ああっ!」 戸惑うヤミヨミの手を強引に引っ張り、魔王は玉座から飛び出した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加