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「ここが魔王のいる玉座の間か。よし、開くぞ。」
勇者の一人が重い扉を開いた。ギギギ、と音を立ててゆっくりと開かれてゆく。
ドヤドヤと100人近くに膨れ上がった勇者たちとそのパーティがなだれ込んだものの、中はガランとしており奥の玉座には誰も座っていなかった。玉座の間は決戦の場にもなるためしっかりとした広さが設けられていたが、それが寂しさを一層際立たせている。
「なんだ、魔王がいないじゃないか。」
「やぁ、おそろいで。待ってたよ。」
入口付近に立っていた男が勇者たちに声をかけた。
「ん?お前は・・・魔族?」
「おっと、構えなくていい。敵じゃない。先に到着したんで君らを待ってたんだよ。俺は魔族の勇者アビス。『魔王の息子に転生したけど闇落ちした聖女に懐かれたので試しに正義に目覚めてみました』と言えばいいかな。」
隣で男の袖をつかむ少女を見て、勇者一行は得心した。
「ふむ。それならば魔王はどこに?魔王城から気配を感じていたが。」
「きっとそれは息子である俺のものだな。場所的に近くて一番乗りだったから。」
「なるほど、そうゆうことか。では魔王はいったい。」
「ここに着いたときにはすでにもぬけの殻だった。けどひとつ心当たりがある。皆の中で、四天王を倒した奴はいるか?なんだか四天王が倒されたって魔物たちが騒いでたんだが。」
4人の勇者が手を挙げて、それぞれ四天王を倒した時の状況を語った。
「ありがとう。やはり思った通りのようだ。」
「説明してくれるか?」
「うむ。俺の父である魔王は狡猾な男でね。仮に勇者にやられても復活できるような手を打っていた。具体的には、魂の分割だ。己の魂を四つに分けて東西南北の地に分散させ、もし一つを失っても残った魂の力で復活できるようにしたんだ。しかも四つの魂には意思を宿らせてそれ自体が強力な魔物となっていた。」
「それが四天王ということか。」
「その通り。一人失っても他の者たちの力でいくらでも復活する、四天王というシステム全体が魔王だったんだよ。魔王は火・水・風・土すべての魔力を持つ全能スキルだったから属性もそれぞれに分かれた。部下に指令を出す時など必要となれば合体して魔王の姿で魔王城に戻ってこればいいわけだ。息子である俺の前にすら滅多に姿を現さなかったほどだから、まったくその慎重ぶりは相当なものだったね。こうして巧妙に姿を隠しつつ影から世界征服を狙い、勇者にやられようとも永遠に存在し続けることができるはずだった。・・・・・・・勇者が複数現れて四天王を同時に討伐でもしない限り、ね。」
事の顛末を察し、その場にいた者たち全員が苦笑した。
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