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「うわああああああああああああ!?」
「うわああああああああああああああああああああああああん!」
「びええええええええええええええええええ!」
いじめっ子トリオが、揃って僕達の目の前で泣いていた。――ブチギレた僕が、三人とものズボンを引きずり下ろしたがゆえに。
「泣くほどいやなことを、人にすんじゃねえよ!」
僕も悔しくて、なんだか泣きたくなって、そう怒鳴ったのを覚えている。
「男とか、女とか、そういうのかんけいないんだからな!黒は、いろんな色をもってる、いろんないろなんだぞ。だから、誰だってすきでいいんだ。かっこいいハヤミににあってるんだ。おまえらなんかよりずっとずっと、にあってるんだぞ、ばーか!」
もちろん、そのあと先生にこっぴどく叱られた。今の時代だったらもっと大きな騒ぎになっていたかもしれない。それこそ、本来ならいくらいじめっこ相手でも、ズボンや下着を下ろすなんて悪戯が簡単に許されていいことではないのだから。
でも、少なくともハヤミは――ちょっと泣きそうな顔をして、僕の服のすそを引っ張ってくれたのだった。
「……ありがとう、カイ」
「うん」
それで、どうしたかって?
僕は考えたんだ。もうハヤミがいじめられないようにしようって。それから、ハヤミといっしょに学校に通うのにぴったりなランドセルにしようって。
僕がその色にすると聞いた時、お母さんたちはとてもびっくりした。でも、僕の理由を聞いてお父さんはとても褒めてくれたんだ。
「さすがだ、カイ。お前は、父さんたちの自慢の息子だ。ハヤミちゃんを守ってやれよ」
僕が選んだランドセルは、虹色。当時めちゃくちゃ珍しい色で、ものすごく目立っていたのは言うまでもない。
でも僕の色が目立てば目立つほど、ハヤミの黒なんて些細なものに見えてくるはずだ。みんなハヤミをいじめなくなるはずだ。
何より。
たくさんの色を閉じ込めている黒いランドセルと並んで歩くなら、虹色のランドセルが一番ぴったりくると思ったのである。
「ハヤミ、一緒に帰ろう!」
「うん、一緒に帰ろう、カイ」
僕達は六年間、そのランドセルを並べて一緒に学校に通い、帰った。
そのあと、どうなったかは娘の君が一番よく知っていると思う。
ほら、見てごらんよ、母さんの黒いドレス。黒なのに、全然暗くないんだ。
だって母さんが大好きな色を着て、今日もとびきり輝いているからね。
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