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黒い色が大好きで、変わり者で、それでもとても強かった彼女。
僕と彼女は幼馴染だったけど、その時はまだ“彼女を追いかける一人のファン”みたいなものだったように思う。自分が持っていない強さをたくさん持っている彼女がとてもかっこよくて、自分もそうなりたいと思っていたのだ。
同時に、彼女のことをたくさん知りたくてたまらなかった。だから年中くらいの時、ついに彼女が黒に拘る理由を訊いたのだ。
というのも、テレビである情報を見て心配になってしまったのである。
「ねえ、ハヤミ。ハヤミは、なんか辛いことでもあるの?」
「なんで?」
「テレビでね、くろいえをいっぱい描くこどもは、やんでるっていってたんだ。やんでるっていうのは、つかれてるとか、いやなきもちをためこんでるってことなんだって。ハヤミも、つかれてるの?パパとママと、けんかしてるの?」
幼稚園児に想像がつく“嫌なこと”なんてそんなものだ。両親との折り合いが悪いとか、誰かに虐められているとか。ハヤミに兄弟姉妹はいなかったはずなので、兄弟関係が問題ではないということはわかっていたが。
「……なんで?」
僕の問いに、ハヤミはぽかーんとしたのだった。
「ハヤミは、パパとママとなかよし。けんかなんかしてない。黒がすき、それだけ」
「どうして黒がすきなの?女の子で、黒がすきな子はあんまりいないよね?」
「うん。でも、ハヤミはそんなこときにしない」
彼女は真っ黒な太陽に真っ黒な家の屋根をクレヨンで塗りつぶしながら、キラキラした目で言ったのだ。
「YouTubeで、いってた。黒は、ぜんぶのいろなんだって」
「ぜんぶのいろ?」
「うん。赤とか、青とか、きいろとか、みどりとか、そういう色がぜんぶまざると、黒になるんだって。だから、黒はいっぱいいっぱい、いろんな色をもってるんだって。いろんな色がぜんぶはじいちゃうと、白になるんだって。光を、ぜーんぶすいこむと黒になるんだって」
当時、彼女が言っていることの半分もわかっていなかったように思う。
ただ彼女がマイナスな理由で黒を好んでいるわけではない、ということだけは理解できたのだった。
彼女にとって黒は、喪服の色でもなければ、暗い感情を示すためのものでもない。すべての色を混ぜた究極の色、だからこそ素晴らしいものだと認識していたらしいのだ。
「ハヤミは、いろんな色がすき。でも、やねの色も、人の色も、いっこしかぬれない。それがさみしい。でも、黒なら、ぜんぶぬったことになる。だからいいの」
黒は、全部の色。
全部持っている色。
「だからね、黒がすきで、黒にあこがれるの」
それは、初めて聞く解釈だった。すごい、と僕は感嘆のため息を漏らしたのだった。
「黒って、すごいんだね。ぼくも、黒がすきになったかも」
「ほんと?」
「うん。黒は、ハヤミのかみのけのいろで、目の色でもあるよね」
僕の言葉に、ハヤミは嬉しそうに笑って頷く。
「うん。でもって……カイのかみのけの色で、目の色だ」
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