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年長の秋頃のこと。
その時幼稚園でもなんとなく話題になっていたのが、小学校のランドセルの色だ。次の春にはもう、自分達はみんな卒園して小学生になる。当然、ランドセルを背負っていくことになるわけだ。
秋くらいになるともうランドセルの購入を済ませている家が多かったのだが、僕はまだどんな色がいいかで悩んでいた。
当時、僕達の代はまだ男は黒、女は赤が一般的だったように思う。実際、道を歩く小学生の大半がそれらの色だった。お店には赤と黒の色以外も売ってはいたけれど、今の時代のように変わった色のランドセルを背負っている子供はそう多くはなかったのである。
僕も、お母さんには黒を買った方がいいと薦められていたし、お祖父ちゃんお祖母ちゃんもそうして欲しい雰囲気だったのだが。
「ハヤミ、ランドセルも黒にしたの?」
僕は幼稚園でハヤミからその話を聞いて、目を丸くしたのだった。さすがに、女の子でランドセルを黒にするのは勇気がいる。ハヤミもさすがにそこは控えるだろうと思っていたのだが。
「大丈夫?男の子みたいって、いじめられない?」
「へいき」
僕の言葉に、ハヤミは力強く頷いた。僕達はいつも園庭のベンチに座っておしゃべりすることが多い。その日もベンチに座ってお話していたように思う。
「ハヤミは、男の子になりたいわけじゃない。女の子らしくしたくはないけど、べつに、男の子になりたくはない。でも、やっぱり黒がすき。ハヤミにとって、黒は、いろんないろだから。虹色みたいなものだから」
「そっか」
黒いランドセルもいいかもしれない。僕もお母さんが言うように黒にするのがいいかな、と思い始めたその時。
「なんだよお、ハヤミおまえ、ランドセル黒なの?」
いつものいじめっ子たちが、ニヤニヤ笑いながら近づいてきたのだ。
「やっぱり、オマエほんとうは男なんじゃねーの?チンチンついてんだろ!」
「ちがう。ハヤミは女の子」
「うそだー!いっつも黒いものばっか好きで、ランドセルも黒なんて!ボーリョクばっかふるうし、ほんとうは男なんだろ!ランドセルが黒なのは、男の色なんだぞ。おまえ、ほんとうに女の子なのかショーメイしてみせろよ!ズボンぬげ、ズボン!もちろんパンツもなー!」
今思うと、からかいにしてもやりすぎていると思う。彼等も幼稚園児だし、未熟なのは仕方ない。一番駄目なのは倫理観をきちんと教えてやる大人がいなかったことだとはわかっているけれど。
「……やだ。そんなのやだ」
さすがのハヤミも、ズボンとパンツを脱げなんてことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。ショックを受けたように俯く彼女を見て、僕は目の前が真っ赤になったのだった。
気づけば。
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