ナナイロ・ランドセル

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ナナイロ・ランドセル

 彼女のことならいくらでも話せそうだけれど、どうせなら出会いから語ってみたいと思う。彼女、ハヤミが幼い頃から変わり者だっただろうってことは君も想像がついているのだろうしね。  僕とハヤミは、いわゆる幼馴染というものだった。幼稚園で一緒になったのがきっかけで、お母さん同士も親友だった。僕が彼女を初めて知ったのは、彼女がいじめっ子の男の子を思い切り泣かせているシーンだったように思う。  年少組。四歳で出会った彼女はその時にはもう“ああ”だった。  お遊戯服に黒い大きな蝶々のワッペンをつけているのが印象的で、短い髪の毛にも真っ黒なカチューシャをつけていた。なんとなくボーイッシュな印象で、ぶっきらぼうに喋る女の子。でも実はとても負けず嫌い。その時も、他の子をいじめていたガキ大将のお尻を後ろから蹴っ飛ばして転ばせ、大泣きさせていたというわけである。 『くそおおお!おんなのくせに、おんなのくせにらんぼうもの!ジャイアン!ふざっけんなよお!』  泣きながら文句を言うガキ大将に、彼女はふん、と鼻を鳴らして言ったのだった。 『ハヤミはジャイアンでいいぞ。ジャイアンは、ほんとうにこまったときは、ともだちをみすてないんだ。でも、おまえはジャイアンにはなれないし、のび太にもなれないな。だって、いじめるだけで、ぜんぜんともだちを大事にしないんだから!』  その態度にますます少年が泣いて、最終的には幼稚園の先生が飛んでくることになったのは言うまでもない。  ハヤミはいつもむっつり黙っていることが多かったが、怒った時は饒舌になったし、なんなら喋るより前に手や足が出ることが多かった。きっと、幼稚園の先生たちにとっては問題児だったことだろう。でも僕は、そんなハヤミがすごくかっこよくて、憧れの存在でもあったのだ。  子供の頃は、女の子の方が成長が早いことも多い。  いつも背の順で一番後ろになるハヤミは長身で、いじめっ子たちにも全く屈せずに堂々としていた。まるでヒーローみたいで、僕はそんな彼女を尊敬したのだった。 『ハヤミ、ハヤミはなんでそんなにつよいの?』  僕は馬鹿正直にそんなことを尋ねたように思う。 『ぼくも、ハヤミみたいにつよくなりたい!でもぼく、とってもチビだから、いつもケンカで負けちゃうんだ……どうすればいいと思う?』  相手が女の子だから情けないとか、そんな認識はなかった。どこか大人びていて、変わり者だった彼女は幼稚園でも浮いていたけれど、僕はまったく気にしていなくていつもハヤミの近くにいた。  なんとなく一緒にお絵かきや粘土遊びに参加する僕に、彼女も段々心を開いてくれていたように思う。僕の問いかけを馬鹿にすることもなく、こう答えてくれたのだった。 『ハヤミは、つよくなんかない。でも、いかりがあるんだ』 『いかり?』 『うん。わるいやつを、ゆるしちゃいけないっていう、いかり。だから、おこったときは、そのおこったキモチを大事にすることにしてる。そうしたら、つめたくされたって、たたかれたって、ぜんぜんヘーキ』  独特の感性で、彼女はその日も真っ黒な絵を描いていた。黒い帽子の女の子が、黒い影と一緒に遊ぶ絵を。 『パパが言ってたんだ。ちゃんと、いやなことをいやだって言うのもゆうきなんだって。だからハヤミは、おこることにしてる。それだけだと思う』
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