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「そいつを下ろせよ!」
「だ、だだ大丈夫だよ、雪知君に向けるわけじゃないから、それとこれから起きることを見ても、絶対に叫んだり声に出したりしないでね」
不二三はカッターナイフを持っていない人差し指を唇にあてた。そして自分の首を掻っ切ったのだ。
「あッ、ぐ、ぐううううう!!」
不二三は自分の指を思い切り噛んで叫ぶのを耐えていた。
「んんんんんんッ!!」
一方雪知は自分の両手を思いきり口に押し付け、窒息するくらい押し付け、驚愕に目を見開き腰を抜かして尻もちをついた。だが確かに不二三は首を掻っ切ったのに、血もでなければ傷口はどんどん塞がっていく。
「はあっ、はあっ、ぼく、死ねないんだ」
「…‥‥」
「死にたくても何故か死ねない。家族も友達も守ってくれる人もいないのに、死にたくても死ねないんだ。だから僕は探偵になるよ」
息をきらしながらひしゃげた指をあげて不二三は雪知に微笑んだ。その笑顔に、雪知も何故かバクバクした心臓が少しだけ大人しくなるのを感じる。
「た、探偵に?」
「探偵だった父さんは殺人犯に一番に殺された。だって犯人は事件がバレたくないから事件を解決する為にやってきた探偵を殺すに決まっているよ」
不二三はこの時、身振り手振りで説明する代わりに饒舌だった。噛み切る勢いでひしゃげた指はもうまっすぐ立っている。
『でも僕は不死身なんだ。血が出ても傷は塞がるし、骨が折れても治るんだ。だから僕は自分にできることをするよ。何もできないダメな僕なんかにこんな力が与えられたのって多分、父さんみたいに人を救いなさいってことだと思うから』
「でもさ、それって不ニ三は痛くないのか?」
「え?」
雪知は自分の使命を語っている不二三に、釘を刺すように疑問を告げた。いつも先生に何かを問いかけるように。
「血が出ても、骨が折れても、傷が治る、でもさ、さっき叫ぶのを必死に我慢して、青い顔していたじゃないか、車に轢かれた時だって痛かったんじゃないのかよ」
図星を突かれたように不二三は目をそらした。
「そ、そんなの、平気だよ。雪知君が車に轢かれていたら死んじゃっていたかもしれないけれど、僕は平気だから」
「それ、なんていうか知ってるか?」
「え?」
「余計なお節介だ」
予想外の答えに、不ニ三は目を見開いた。救ったことで感謝されるとは思わずとも、余計なお節介と言われるなんて思わなかった。死にたかったのだろうか、雪知君は。
混乱する不ニ三の肩を、雪知は優しく掴んだ。
「もう自分から死のうとするなよ、俺はお前に死んでほしくない、次お前が死のうとしたら、俺は止めるからな」
「何言ってるの?雪知君、僕は死なないんだよ。だから僕の命なんて...」
「お前が不死身なのは、お前が命を軽く見るためになったわけじゃないだろ。お父さんとお母さんのこと考えろよ」
「......」
初めて自分のことをまっすぐみて考えてくれた雪知。
同級生で、目を合わせてこんなに喋ったのは、不ニ三にとって初めてのことだった。
「お前にとって余計なお世話かもしれないけどな」
雪知も、同級生とこんなに面と向かって思いを伝えたのは初めてだった。
少し恥ずかしくなって横を向いた雪知に、不ニ三は少し微笑んだ。
「ありがとう、雪知君」
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