しょうゆ味

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 その後は事務的に診察室に通され、採血や身体検査などが行われた。  検診の結果を待ったり、なんだかんだ時間は過ぎていきあっという間に午後四時となっていた。 「それでは最後に先生よりご説明がありますのでお待ちください」  そう言って無愛想な受付の女性が診察室から出ていくと、立ち替わりに背の高い眼鏡に白衣の男が入ってくる。  男はにこやかに笑みを浮かべ向かいの席に座った。 「どうも菅さん。本日はお越し頂きありがとうございます。私は責任者の林田(はやしだ)と申します」 「はぁ、どうも」  気のない返事にも笑顔のままの林田は、傍のファイルから数枚の紙を取り出し俺の目の前に並べた。  それはこれまでに受けた診察の結果のようで、俺の名前と体重や身長などが記載されている。 「検査の結果ですが健康状態ともに悪くないと言えますね。特に喫煙と飲酒をしていないのは素晴らしい!」 「そうですか…あまり興味なくて」  世間話でもしに来たのだろうか。その後も林田は診断結果をペラペラ語った。  いい加減うんざりしてきたところで「それでは本題に入りましょうか」と分厚い紙を取り出す。 「本日の治験の内容ですが、試験薬を飲んでいただき明日までこちらが用意した部屋に待機して貰います。途中外出などはできません」  治験内容とおぼしき紙を指さして林田は真剣な表情で続ける。 「この薬に関してはもちろん安全性を十分に確かめてあるものですので、ご心配なくお飲み下さい。副作用で人により頭痛や眠気などがありますが、ひどい場合は中止いたしますので申し出て下さいね」  ペラペラと紙をめくり説明が続く。  要するに安全な薬を飲んで一日中部屋に居ればそれだけで五十万が手に入るらしい。   「情報漏洩(じょうほうろうえい)を防ぐ為にスマホは部屋の中では使えません。しかし、部屋の中には時間を潰せる本などはあります。僕のおすすめの本は『君の雑炊が食べたい』です!」 「あの、食事とかはどうなるんですか?」 「それはご安心を!朝昼晩の食事をご用意しますし、中には間食でお菓子やカップラーメンなどもありますから」  説明を受ける限り至れり尽くせりのバイトのようだ。ここまで楽な仕事があるのかと疑い深くなる。   「こちらの注意事項や説明などを読んで、承諾書にサインをお願いします!」  そう言われ最後に差し出された紙には甲やら乙やらの文面がびっしりと書かれ、文字が今にも踊り出しそうだった。  俺はなるべく丁寧に目を通し、なにか落とし穴があるんじゃないかと疑い深く読み進めた。  林田の方を伺うと、貼り付けた様な笑顔を絶やさずニコニコとしていた。
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