3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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「あら、早かったのね」 「はい! 人の家でシャワーを浴びることなんて、滅多にないので」 「ソワソワしたでしょ? ゆっくりで良かったのに」  元々薄化粧のアキは、すっぴんでも気にしない。  すっきりした表情で席に座った。心まで洗われた気分になって、久しぶりにリラックスできていると実感する。  生きるか死ぬかの瀬戸際が続いていて、心の中はずっと殺気立っていたのだ。  それもこれも、このお店に出会えたから。 「なんか良くしてもらって、ありがとうございます……」  気づいたら感謝の声をあげていた。  サリは「かしこまっちゃって」と言いながらニコッとさせる。  座ってから数分後に、出汁巻き卵と小ぶりのおにぎりがセットで置かれた。 「はい、これ朝ご飯。中は鮭ね」 「え! いいんですか?」 「もちろんよ! あとみそ汁も。さっきのシジミ汁だけど」  見るからにフワフワしている艶のある出汁巻き卵。  柔らかくて熱々。そして出汁の香りがまた絶妙に良い。  長皿の上に出汁巻き卵、おにぎり、大根おろし、たくあんが綺麗に配置されている。 「いただきます!」  しなっとしている海苔と米が美味い。塩加減が食欲を加速させた。  たくあん、おにぎり、一旦みそ汁を挟んで、その後に卵……綺麗に食べ進めていく。  鮭の脂身が甘くて、塩分と絡んで美味しかった。最高の朝食を前に、生きているという現実を実感した。 「本当に、美味しそうに食べるな」  猫神様が隣に来る。アキの食べっぷりに感心するように首を傾けた。  今まで寝ていたからか、エネルギーが有り余っているように見える。 「昨日もたくさん食べたのに、どうしてお腹って空くんでしょうね」 「ははは……お前さん、それが生きるってことなんだぞ」  猫に説得されるなんて……と心で思いつつも、中身は神様だ。アキは頷きながら、みそ汁の優しさにまた包まれた。  全部食べ終わると、猫神様はサリに呼ばれた。  小皿の中に出汁が入っていて、それをペロペロ舐めている。 「今日は何の出汁なんですか?」  長い舌で嗜んでいる猫神様に聞いてみると、一言「うむ」とだけ返してくれた。  昨日も食事中だと怒られた気がしたので、あんまり話しかけない方がいいんだと悟る。  その代わりにサリが話し相手になってくれた。
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