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「春風君……心配してくれてるのね」
孤独だと思っていたのに、こんな自分にも心配してくれる人がいる……慈しみの気持ちを受け取ったアキは、また泣きそうになった。
せっかく教えてもらったのだから、このみそ汁食堂に行ってみよう。空腹も手伝って、その決断に至るのに時間は要しなかった。
よしっと腰を上げようとした瞬間、窓の外がピカッと光る。
”ゴロゴロゴロ”
意表を突くように、頭部にタライが落ちてきたのではないかというくらいの爆音が鳴った。
雷が家の近くに落ちたのだろう。雨も更に強まってきた。
「さすがに……まだ行けないか」
何より、まだ朝過ぎる。気が動転していた。
こんな朝早くから営業しているようなお店ではないだろう。
アキは一つ溜息を吐いて、またベッドに横になった。
春風が送ってくれたお店の口コミをスマホで見てみる。
レビューは……なし?
今の時代口コミの一つや二つは掲載されていてもおかしくないのに……できたばっかりのお店なの?
色んなグルメサイトを見てみても、詳しい情報は一つも書かれていない。
どのサイトにも書かれているのは、お店の名前と住所だけ……怪しいとしか思えなかった。
どうして春風は、こんなお店知っているのだろう? まあ、フットワークの軽いモテ男のことだから、店の前を通った時にフラッと入って、それで気に入ったのだろう。
色んな飯屋を知っておくことが、モテる秘訣だって言っていたこともある。
春風の言っていたことを思い出しながら、アキは目を瞑った。
「みそ汁食堂……ね」
幼い日の記憶が蘇る。
物心がついた時から、アキに母親はいなかった。
ずっと父親の手一つで育てられてきたアキ。
小学校を卒業する時くらいまでは、父親が毎朝みそ汁を作ってくれていた。
ちょっとしょっぱかったあのみそ汁……全然美味しくなくて、はっきり不味いと言ってしまったことがある。
それ以来父親は料理すること自体なくなっていって……簡単に父親を傷つけてしまったのだ。
生意気だったあの頃の記憶が、夢の中に映っていた。
……そうか。
アキは自分の気持ちに気がついた。
父親に会いたいという気持ちに。
――でもそれは到底無理なことだった。
つい二週間前に、アキの父親は他界したのだ……。
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