3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

2/15
前へ
/96ページ
次へ
 夜しか出会えないなんてドラキュラみたいと突っかかりそうになったけど、やめておいた。  サリも夜は活動しないみたいだし、この店はそうやって営業しているのだろう。  アキは「そうですか」と少し元気なく答えてしまった。  サリは火がかかっている鍋の中を見ながら「大丈夫よ、また今晩も会えるから」と言ってくれる。 「お前さん、ネトを気に入ったのか?」 「え、いや……そういうわけでは」  猫神様が面白そうに聞いてきた。アキは咄嗟に否定する。  サリは微笑みながら「そういうデリケートな話は、タイミングを見て聞くものよ」と猫神様に注意した。 「サリさんまで! 違いますよ! 単純にどこ行っちゃったか、気になっただけです!」  サリと猫神様が目を合わせて笑う。  赤面しているアキは「もうー」と言いながらテーブルに突っ伏した。  すると耳元で、汁椀が置かれたような『コトッ』という音がした。  顔を上げると、そこには湯気が立って温かそうなシジミ汁が置かれていた。 「サリさん、これは?」 「飲み過ぎには定番のシジミ汁でしょ? あなたのために作ったのよ」  殻付きのシジミと三つ葉、胃の中が荒れている今にふさわしい、優しいみそ汁。  アキは「いいんですか?」と嬉しそうにする。サリも「もちろん」と満面の笑みで返した。  朝からアキの鼻腔を擽っていたのは、これだったみたいだ。 「いただきます」  なんて優しいのだろう。体の芯から温まる。  アキは自然と溜息が出た。  胃の中のアルコールが綺麗に浄化していくような、清められている気持ちにもなる。  シジミの甘みと三つ葉のシャキシャキ感がバランス良く、口の中が整えられていく。 「魚介系の臭みを消すために、今回は仙台味噌を使ってるわ」 「仙台味噌って、そういう効能があるんですか? 臭い消しみたいな」 「仙台味噌は赤味噌だからね。白味噌よりも濃いから、相性がいいのよ」  なるほど……アキはここに来て、味噌の知識が少しずつ増えていっている。  汁椀の中に入っているシジミの殻をチェックすると、身はすべて平らげていた。 「美味しかった……」
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加