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由緒ある木造建築の一軒家に、薄明りの提灯がぶら下がっている。
おかしい……まだ夕方にもなっていないのに、こんなに周囲が暗いなんて。
暖簾には確かに『みそ汁食堂 めいど』の文字がある。アキは体が固まって動けないでいた。
まるでここだけ世界が違うような、異様な建物……困惑しているアキが、ようやく後退りしようと足を戻した時、建付けの悪そうな引き戸がガラガラと開いた。
「いらっしゃい! お客様でしょ?」
「え? あ、ああ……」
中から割烹着を着た、手足の長いスタイルの良いお姉さんが出迎えてくれた。
背が大きくて、顔に骨っぽさを感じない綺麗な顔。まるでモデルのようだ。
長くて艶のある黒髪は、後ろで一本に結んでいる。
「どうぞ、中に入って」
アキは言われるがまま中に入る。店内はカウンターのみだった。
木製の椅子の上には、平べったい座布団が置かれている。それが全部で五席。隣同士の間隔はそこそこ狭い。
いきなりカツオの出汁の香りがアキの鼻腔を擽った。
「良いニオイ……」
「ふふ、そうでしょ? ほらほら座って!」
カウンターの向こう側がキッチンになっている。お姉さんはニコニコしながらキッチンに入った。
沸騰していた鍋の火を止めて、中に入っている出汁の味の確認をする。
「うーん……よしよし、良い感じだわ」
店内を見渡すアキ。
外観に比べると、内観はだいぶ清潔感がある。あまり物が置かれていないからか。
いたってシンプルな構造。余計なものはないという感じだ。
キッチンのほうも気になってつい目をやると、キッチン側からぴょこっとテーブルに白猫が参上した。
急に現れた大きな白猫を見て、アキはつい大きい声を出してしまった。
「あ! さっきの白猫ちゃん!」
ここに来る途中で、アキを通り越して進んでいった猫だ。
お姉さんは笑いながら猫の前に小さな皿を出した。
「あらあら、初めましてじゃないのね」
白猫は小皿に入った出汁をペロペロとなめている。
テーブルの上に猫……普通なら違和感があるはずなのに、不思議とアキは受け入れられた。
そのモフモフに触りたくなって、手を持っていこうとすると、白猫はギッとアキを睨んだ。
「ワシに気軽に触るなよ。今は食事中なんだ」
……目を丸くさせて、状況を整理しようとするアキ。
しかし、まったく理解できない。
え? 猫が……。
「猫がしゃべった!?」
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