3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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「猫が話す不思議なお店……冷静でいられる理由が思いつかないんだけど」  女性は冷めた目で猫神様を見て言った。  おしぼりをテーブルに置いたサリは「まあまあ、とりあえず落ち着いて」と宥める。 「私、ついに変な世界にまで飛ばされたのね。踏んだり蹴ったりって、このことを言うんだわ」  両手を乱暴に拭きながら、絶望を嘆くように呟く女性。  アキと同様、生きることにおいて切羽詰まった状況なのだ。とにかくネガティブに捉えてしまうところは共感できる。  アキよりも少し横柄な態度で表しているけど。 「まず初めに、お名前は?」 「私? 藤宮 ミサ(ふじみや みさ)だけど」 「藤宮さんね。このお店は白猫がオーナーをしている不思議な食堂よ」 「この白猫がオーナー? 笑わせないで」  ちょこんと佇んでいた猫神様が、伸びをしてから怠そうに話し出す。  さっきから悪者扱いをされているみたいだった猫神様は、ちょっとだけ不機嫌そうだ。 「ここは神様たちが運営しているお店だ。信じられないかもしれないけど、女神と死神、そして猫神がお前のような人間を招き入れるために作られたお店だ」 「私のような人間? ど、どんな人間よ?」 「……瀬戸際の人間のことだ」  残酷さを感じさせる言い方。猫神様はシリアスな表情でミサに突きつけた。  ミサも瀬戸際という単語を聞いて心当たりがあるのか、「最悪」と小さく嘆く。 「まあまあ、美味しいご飯を用意しますからね。そう目くじらを立てないで」  サリはいつだって笑顔だ。上手くバランスを取るように、空気を柔らかくしている。  アキも居づらくなっているけど、サリが注いでくれたコップ一杯の水を飲み進めながら、黙ってミサのやり取りを見届けることにした。  猫神様は、あとはサリに任せることにしたのか、窓際のスペースに飛び移り日向ぼっこを始めている。 「嫌いな食べ物はない?」 「ピーマンと納豆」 「……子供みたいね」  サリは苦笑いする。ミサは聞いていなかったのか、頭を抱えて自分の世界に入っているようだ。  きっと心の中で、『人生上手くいかないし、変な世界に紛れ込んじゃうし、最悪』とでも思っているのだろう。  この後まさか、生きるか死ぬかを選ぶことになるなんて……予想もできていないはず。
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