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「じゃあピーマンは使わないわね。お腹空いてるだろうから、美味しい定食を作りますからね」
サリは真剣モードになったのか、腕を捲ってから手のスピードを早めた。
下ごしらえの段階で角切りにしていたニンジンやタケノコ、薄切りにした玉ねぎと輪切りのレンコンがキッチンに並んだ。
最初からこれを作る気だったのか、ステンレス製のボウルの中にそれらがぎっしりと詰まっている。
冷蔵庫から豚ロースが取り出され、それだけはまな板の上で食べやすいサイズに切られていた。
「何を作るっていうの?」
「今日のおかずは黒酢あん炒めよ。好きでしょ?」
「……よく定食屋で食べるけど」
ミサの顔から笑みがこぼれた。食の話は、人の顔を笑顔にする。アキはつくづくそう思う。
同時にアキは、今日のみそ汁が何か気になっていた。朝シジミ汁を食べさせてもらったけど、あれはもう食べきったはず。
ということは、新しくまた、何かのみそ汁が作られる。
早く何のみそ汁が作られるか、見たい……。
「ピーマンなしだと、緑が足りないか……ま、長ネギを豚汁の中に入れるからいいか」
豚汁? 今サリは、間違いなく「豚汁」と言った。
アキは思わず聞き返してしまった。
「今日は豚汁なんですか?」
「あ、ええ。大丈夫、あなたにもちゃんとあげるから」
アキは心の中でガッツポーズをする。
サリが作る豚汁に、不味いという概念があるわけがない。確信していた。
黒酢炒めの中に緑がないから、豚汁の方で緑を補う……一体どんな色合いになるのか。
アキはそれが楽しみだった。
「今日は根菜祭りよ。体に良いし、文句ないわよね?」
ミサはゆっくり首を前に倒した。
根菜の中で嫌いなものはないみたいだ。まずは黒酢炒めから作るのか、フライパンの上にサラダ油が入れられた。
傾けながら、油を伸ばしていく。
豚肉に塩コショウと片栗粉をまぶし、その後はタレづくり。
目にも止まらぬスピードで、黒酢のタレが出来上がっていく。
「フライパンは……温まってるわね。じゃあいくわよ」
ニンジン、タケノコ、薄切り玉ねぎと輪切りのレンコンを先に入れて炒め、少しだけ蓋をした。その後の豚汁に使うのか、ボウルに入っている食材は全部は使わず、一人前分だけフライパンに入れている。
その後に並行して、底の深い鍋にも火を入れ始めた。
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