3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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「じゃあピーマンは使わないわね。お腹空いてるだろうから、美味しい定食を作りますからね」  サリは真剣モードになったのか、腕を捲ってから手のスピードを早めた。  下ごしらえの段階で角切りにしていたニンジンやタケノコ、薄切りにした玉ねぎと輪切りのレンコンがキッチンに並んだ。  最初からこれを作る気だったのか、ステンレス製のボウルの中にそれらがぎっしりと詰まっている。  冷蔵庫から豚ロースが取り出され、それだけはまな板の上で食べやすいサイズに切られていた。 「何を作るっていうの?」 「今日のおかずは黒酢あん炒めよ。好きでしょ?」 「……よく定食屋で食べるけど」  ミサの顔から笑みがこぼれた。食の話は、人の顔を笑顔にする。アキはつくづくそう思う。  同時にアキは、今日のみそ汁が何か気になっていた。朝シジミ汁を食べさせてもらったけど、あれはもう食べきったはず。  ということは、新しくまた、何かのみそ汁が作られる。  早く何のみそ汁が作られるか、見たい……。 「ピーマンなしだと、緑が足りないか……ま、長ネギを豚汁の中に入れるからいいか」  豚汁? 今サリは、間違いなく「豚汁」と言った。  アキは思わず聞き返してしまった。 「今日は豚汁なんですか?」 「あ、ええ。大丈夫、あなたにもちゃんとあげるから」  アキは心の中でガッツポーズをする。  サリが作る豚汁に、不味いという概念があるわけがない。確信していた。  黒酢炒めの中に緑がないから、豚汁の方で緑を補う……一体どんな色合いになるのか。  アキはそれが楽しみだった。 「今日は根菜祭りよ。体に良いし、文句ないわよね?」  ミサはゆっくり首を前に倒した。  根菜の中で嫌いなものはないみたいだ。まずは黒酢炒めから作るのか、フライパンの上にサラダ油が入れられた。  傾けながら、油を伸ばしていく。  豚肉に塩コショウと片栗粉をまぶし、その後はタレづくり。  目にも止まらぬスピードで、黒酢のタレが出来上がっていく。 「フライパンは……温まってるわね。じゃあいくわよ」  ニンジン、タケノコ、薄切り玉ねぎと輪切りのレンコンを先に入れて炒め、少しだけ蓋をした。その後の豚汁に使うのか、ボウルに入っている食材は全部は使わず、一人前分だけフライパンに入れている。  その後に並行して、底の深い鍋にも火を入れ始めた。
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