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「よし、良い感じで火が通ってるわ。じゃあ豚肉も」
再びフライパンに目を向けるサリ。
豚肉を投入すると、油がジュッと踊り出す。豚肉という主役が加わることによって、フライパンの中がさらに活気づいた。
菜箸で大胆に混ぜ合わせていく。ちょうど良いタイミングで黒酢ダレを投入。ニオイが犯罪的だ。
黒酢、ケチャップ、醤油、酒、あとはてんさい糖が入っていたはずだ。アキはしっかりと観察していた。
「鍋の中はどんな感じかな」
気がつくと鍋の方にも火がかけられていた。
黒酢炒めに観察力をすべて使っていて、そっちは見ていなかった。
鍋の中には根菜たちが混雑していて、菜箸で食材に火が通っているか確認する。サリは「良い感じ」と頷くと、その後に豚肉を入れた。
そして長ネギもプラスする。焼き目がつくように底の方で重点的に火を加えている。
「こっちは軽く煮からめていけば完成ね。あとは豚汁だけか」
黒酢炒めの方の火を弱める。豚汁の方に神経を注ぐようで、アキもそっちにフォーカスし始めた。
鍋の食材はある程度火が入っていたのか、鍋の中に水とあご出汁を投入した。思い出したかのように舞茸も追加。
底の深い鍋を使ってはいるけど、中を覗くとそこまでたくさんの水は使っていない。三、四人前程度の量だった。
アキは自分の分もちゃんと作られているみたいで、僅かにホッとできた。そうこう考えているうちに、すぐに沸騰してくる。
「今日はどうしようかなぁ」
例のごとく、味噌が並んでいる扉を開く。
ここまで貯蓄されている味噌を見たことなかったのか、ミサは呆気に取られているような表情を見せていた。
「よし、今日は合わせ味噌といきますか。これと……これね」
サリは片方ずつの手に瓶を取り始める。合わせ味噌……アキはますます興味が湧いてきた。
左手には西京味噌、右手にはシジミ汁の時も使った仙台味噌のラベルが貼られた瓶を持っている。
「西京味噌は白味噌で、仙台味噌は赤味噌。これを四対三の割合で使っていくわ。白味噌が四ね」
白味噌多めに作る合わせ味噌。ちょっと甘め要素が強めの方がいいのか……アキの中では、もう推測が立つくらいに詳しくなってきている。
大きなおたまの中で味噌を混ぜ合わせ、ゆっくりと溶いていく。
灰汁を取り除いた鍋の中が、黄土色に染まっていく。ぐつぐつという音が耳になじみ、目を瞑るとそれだけで食欲が満たされるのではないかと錯覚するほどだった。
アキは完成を待ち侘びていた。
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