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テーブルに肘をついて、頭を抱えるミサ。大切な人に、好きと言えなかったこと。大切な人の母を、もっと気にかけてあげていたら。
ちゃんと大切だと伝えていたら、こんなに心が沈むことがなかったかもしれない。
ミサが死を考えるようになったのは、ミサの中にある後悔の塊が存在感を増しているからなのだろう。
事情を聞き終えたサリが、ゆっくりと口を開く。
「その想いは、二人に届いているはずよ……」
ぐすんと鼻が鳴るミサ。涙の粒がテーブルに落ちた。
サリは励ますように「辛かったわね」と声をかける。
アキはその涙を見て、どうにも居た堪れなくなった。アキがミサにかける言葉は、何も思い浮かばない。
話を聞くのに夢中になっていて食べかけだった豚汁に目を向ける。気を紛らわすように、アキは豚汁の中の焼きネギを口に入れた。
シャキシャキという食感とネギの甘みがぼーっとした頭の中を活性化させてくれる。
アキが食しているところを横目で見たミサも、合わせるように豚汁を食べ始めた。
「美味しい……美味しい……」
長ネギ、舞茸、豚肉、根菜……ミサの口の中を支える食材たち。
涙を流しながら、その味を噛みしめる。
ミサはきっと、順也とお母さんとの思い出を振り返りながら食べている。アキはミサの様子を見て、そう予想ができた。
「甘みも、辛みも、そのみそ汁には詰まっている。あなたの人生と一緒ね」
「……確かに」
サリの言葉でミサは前を向いた。ハッと気がついたみたいに目を丸くさせる。
「甘い白味噌、辛めの赤味噌、それが合わさった合わせ味噌。その幼馴染の彼との思い出は、辛いことだけではなかったはずよ」
「……順也」
今は辛い記憶しか思い出せないかもしれない。でも、生きていた時の甘い記憶もある。
その感情を呼び起こそうと、サリは寄り添うように告げた。
ミサの目からより一層の涙が流れてきた。
「あなた……死のうとして、自暴自棄になって、そしてこの店に行き着いたんでしょ?」
「……夢の中で……声がしたんです」
「声?」
「ええ。人形町の中にある横道に、私を救ってくれるお店があるって」
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