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夢で声がした。それは誰の声なのだろう。
アキの疑問は、すぐにサリが質問してくれた。
「どんな声がしたの?」
「……わかんないです。気落ちしていたし、ぼんやりとした中での声だったので」
「そっか。まあそうよね。夢の中の記憶なんて、すぐ忘れるもんね」
「はい。でも……気がついたら、人形町に向かって足が動いていました。夢の中で声と共に、このお店の外観の映像も流れたので」
サリはそれを聞いて「神からのお告げみたいなものね」と言って笑った。
ミサにも、選択の機会が回ってきたのだ。アキにも届いたように、生きるか死ぬかを選ぶ機会というものが。
夢でのお告げなんて……そういう手法もあるんだと、アキは心の中で感心した。
「それで……ここに来た時と比べて、どう?」
「どうって?」
「……死にたい気持ちは、消えない?」
いよいよ本題か。アキも倉持も選んだ、運命の瞬間。
アキまで緊張感が届く瞬間だ。アキ自身も、足が震えている。
ミサは箸を置いて、サリの方をじっと見た。一度唾を飲み込んで、今の気持ちを吐露する。
「私は……大切な人がいない世界に、興味なんてないです」
倉持と一緒だ。やっぱり、サリの定食を食べても死を捨てきれないでいる。
アキは倉持が消えていくシーンを思い出した。
生きて自分の人生を続けるという可能性を考えないのは、もったいないと思えた。アキは勢いよく立ち上がる。
「待ってください! それじゃあ、死を選ぶってことですか?」
「……死んでもかまわない」
力ないミサの声。アキは力が抜けるように、椅子に体重を預けた。
アキも虫のような声で「それは悲しいよ」と呟いた。
場を整理するように、サリが説明してくれる。
「ここは神様たちが、あなたのような瀬戸際の人間を迎え入れるお店よ」
「さっき白猫も言っていたけど、瀬戸際って……何なのよ?」
窓際でぐっすり眠っている猫神様を一瞥して、サリに聞く。
この店のコンセプトはまだ、はっきりとミサには伝わっていなかった。
「生きるか死ぬか、迷っている人間に、選択を与えるってこと」
「……生きるか死ぬか、瀬戸際の人ってことね」
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