プロローグ

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プロローグ

 雨が鳴っている。  窓を打ちつける豪雨も相まって、気分は最悪だ。 『おはようございます。本日腹痛のため欠勤いたします。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。胡桃(くるみ) アキ』  アキは死んだ目をしながら、大嫌いな上司にメッセージを送った。  どうせこんな忙しい時期に……とか、午後からでいいから絶対来て……とか、労いの一つもない冷徹なメッセージが返ってくるだけだ。  アキはその返信を待たずに業務端末の電源を切った。  そして……ベッドの中に潜った。 「あのクソジジイのせいで最悪よ……あぁ、人生しんど」  これから夏に突入するというのに、朝の部屋は掛け布団がまだ外せないくらいに寒い。  梅雨がなかなか明けないせいだろう。ここのところ、連日の雨だ。  気分が地の底まで落ちているアキは、自分の昇進しか考えていないような軽薄な上司の悪口を独り言ちた。  人生史上一番のストレスが、アキを襲っている。その理由の半分は、会社。つまり、上司のせいだ。 「あーもう死にたいな。っていうか死んじゃうか? 別に死んでも良くない? こんな人生」  念仏のように唱えるネガティブな独り言は、もはやアキの口から自然と出てきた。  それくらい、切羽詰まった状態。アキも自覚している。  アキは孤独だった。  横になりながら全身が小刻みに震え出し、熱さが喉元から鼻の奥に走った。  アキは気がつくと、冷たい一筋の涙をツーっと流していた。 「ううう……神様……どうして私の人生って……いつもこうなの……」  ……潤んだ声が、殺風景な部屋に小さく響く。  すると、しばらくシーンとした後に、床に投げ捨てられたスマホが鳴った。 『胡桃、大丈夫か? 大丈夫じゃないなら、息抜きにここ行ってみれば? どうせサボりなんだろ?』  メッセージと共に、とあるお店のURLが送られてきた。  送り主は、会社の同期である春風 海人(はるかぜ かいと)からだった。 「みそ汁食堂 めいど……か」  そういえば、昨日の昼から何にも食べていない。  今までは食べることでストレス発散してきたのに、それもしなくなっていた。  空腹に気づいたアキは、むくっと起き上がった。
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