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見てはいけないもの、というのは、確実にこの世には存在する。
例えば、神社にお参りに行って、実際にそこで神様を見てしまわない方がいい。
もし見てしまったなら、その人間はきっとかんたんに気が狂ってしまうだろう。
私はまさにいま、そんな状態に陥っていた。
「……見た」
「……見た? ね。スゴいでしょ」
私はたまに、お客さんなどに綺麗だね、モテるでしょ、などと言われることがある。
そう言われれば言われるほど、自分はブ○イクになっていく、そうすぐにも思うたちだ。
でも、今回の場合は違った。お前は、私という存在がある以上、必然的にブ○イクなのだ。そう、はっきりと宣告されたような、そんな気がした。
「……私もまあ、いままで人並みに恋愛経験はしてきたけど、正直ここまで圧倒的に差をつけられたことはなかったね。もうなんか、自分なんて比較にすらなんないというか。だからいま、里美ちゃんがあんなになってるのも、なんかわかる気がするんだ」
自分には今後里美ちゃんがサギに対してどうするかなんてことは、一言も言ってきていない。でも、あの様子ではとても安心できない。何か取り返しのつかないことを、この子に対してしてしまうのではないか。そうすずは言う。
「まずは里美ちゃんの話をしっかり誰かが聞いてあげる必要が、あると思うんだけど。でも、その相手がいまは千春ちゃんだけになっちゃってるからーーわかるでしょーー余計火に油を注ぐ結果にならないとも限らないし」
そのサギという少女に、自分も一度直接会ってみたい。
いや、絶対に会わなければいけないのだ。
私は、心からそう思っていた。
でもそのことは、すずには言わないでおいた。
すずとの電話を終えた後、私はスマホの中のサギの写真を眺め続けた。気が付いたら、三時間経っていた。
それでも、見足りないのだ。例えば一個の漢字をずっと眺め続けていると、その漢字の持っている『意味』が抜け落ちていき、わけのわからないただの図形のようなものになってしまうことがある。
でも、この場合はまったく違った。サギの写真は、汲めども尽きないような『意味』で満ち溢れていた。
そしてその『意味』はーーこの私に自然と、次のような考えを強く呼び起こさせた。
……この子を、自分の手で始末しなければならない。
それも、里美よりも先に。
このとき私は、昔ある詩集の中で読んだ、中国の嫉妬深い女の話を思い出していた。
現代詩文庫の何巻めだったか忘れたが、その詩人は、中国のとある古い本の中から、まるまるその逸話を引用していたのだ。
その部分が、非常に強く印象に残ったので、私はそのすべてをメモ帳に書き写しておいた。
むかし、呂后というお后がいた。彼女はその敵の女、威夫人を憎んでいた。
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