You will be quiet #6

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 彼女のこの肉体にーーいま鉄くんは溺れているというのか。この私をおいて。  瞬時に、カーテンについた火が燃え広がるように、私の中に怒りがわき起こった。  私はコートのポケットの中の、ティファール製の汎用ナイフを握りしめた。  あとは黙って、この少女を「人彘(ひとぶた)」にしてやるだけである。それで、すべてが終わる。  そう思って、一歩サギに向かって踏みこんだ、そのときだった。  ……私は、一瞬目を疑った。  私の思考はそのとき完全に停止していて、再開させるのにひどく時間がかかった。  これはいったい、どういうことなのだろう。  見間違いかと思って、私は一度目をそらせた。そしてふたたび見てみると、やはり間違いではない。  サギがーー隣にいる男性ののだ。  周囲の人は、どうやら気づいていないらしい。みなスマホの画面に全意識を奪われている。  でも、私にはわかる。間違いはない。  私の頭は文字どおり混乱していた。目の前で起きている事態が、まったく飲み込めないでいる。    ……どうして、鉄くんの彼女と言われているこの少女が、自ら男性に痴漢しているのか?    完全な異形の者に対しては、こちらから一方的に手出しする意欲が削がれるということが、このときよくわかった。私は、この少女に何もできずにいた。  やがて電車が止まると、扉が開き、サギは身を翻すようにして電車から降りると、そのまま走って去っていった。残された男は、まるで畳まないでベッドの上に脱ぎ捨てられたパジャマのような、そんな顔で骨抜きにされている。  私はその後を追うようにして電車から降りた。でもサギは、通学する同じ生徒の波に飲まれ、もうどこに行ったかわからない。  なんだかめまいのようなものを感じて、私はホームの壁に寄りかかると、この事態を一から考え直してみた。  まず、このことを『鉄会』のメンバー、とくに里美には、絶対に伝えるべきではない。  ひとまず私の内に、留めておく必要がある。  でも、とはいえそんなに時間はないかもしれない。このことをいまの時点で里美は調べきれなかったようだが、でもいつ、自分の力でたどりついてしまうかわからないからだ。  ……もしそうなったら、里美はいったいどうなるだろうか。  そしてもう一つ、この自分にとっても極めて重要な問題があった。
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