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……果たして鉄くんはーーこの事実を知っているのだろうか?
もし、知らないでいるのだったらーー。
あのふざけきった少女に対して、猛烈な怒りと憎しみが、私の中に蘇ってきた。
やはり最終的には、私の手できっちりと始末してやるべきだ。でも、いまではない。そんな気がする。
それよりもまず、あの少女のことを、もっと知る必要がある。
でも、そのためにはいったいどうすればいいというのだろう。
まさか、鉄くんに直接聞いてみるわけにもいかない。
このことに里美が気づくよりも前に、ことを進めなければならない。時間は、ない。
2
気がつけば、私はあの少女のことを考えてしまっている。そんな状態になってしまっていた。
それぐらいあのときの衝撃が、棘のように刺さって取れないのだ。
どこか彼女には、自分の理解を超えているような、そんなところがある。
世代間の差、なんていう薄っぺらなものでは、たぶんないと思う。そういうものが厳然と存在している、ということは知っているけど。
同性同士の趣味嗜好の差、なんてものでももちろんないだろう。趣味嗜好、などという言葉だけで説明されても困ってしまう。
この感覚を、どう説明したらいいかもわからない。
いずれにせよ、私はもっと、あの少女を知る必要があった。そのためには、彼女の観察を続けるしか、他に方法がないように思った。
前回の成功例を、私はもう一度踏襲することにした。うまくいくときのほうが比較的多かったが、何回かは姿の見えないときがあって、その理由はわからないが、それでもあきらめずに、私は観察を続けた。
するうちにどうやら、サギは男性への痴漢行為を常にしているわけではなくーーただつり革を握って、じっと窓の外を眺めているときもある、ということもわかってきた。
そのときの、その横顔の清冽なことといったらない。つい、見とれてしまうほどだ。
おかげで余計にーーその痴漢行為とのギャップを強く感じざるを得ないのだ。
しかし今日は、その何回か、の方の日に、どうやら当たっていたようだった。さっきから、サギの姿が見えない。
ひととおり周囲を見回してみたが、混んでいることもあって、完全に確認することもできずにいる。
といって私はスマホを取り出して眺める気にも、持参している詩集を読む気にも全然なれずに、ただ黙って虚ろな気持ちで電車に揺られていた。
そのときだった。私はハッとして、体の動きを止めた。
より正確にいえば、自分のカラダに、その変化はさっきからおそらく起きていたのだがーー私はそのことに気づかずにいたのだ。
今日はいつにも増して、電車の中は混んでいる。それも理由の一つかもしれない。
……誰かが、私のカラダを触っている。
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