1 幼馴染との同棲

2/6
前へ
/51ページ
次へ
 裕貴は、マンションの前まで送ってくれて、珍しく車から降りてきた。  見送ってくれるのだろうか?   「あのさ。提案なんだけど……」 「ん?」  どうやら話があるようだけれど、歯切れが悪い。   「おまえが良ければ、俺の秘書やってくんない?」 「秘書?」  言われて、イメージするのはスーツ姿で背筋の伸びたバリキャリだった。 「ほら、俺、昔っから時間にルーズなところあるだろ? でも出版社でそれって致命的なわけ。おまえが秘書やって、マネジメントしてくれると助かるんだけど」  裕貴は、穂鷹(ほだか)出版の社長だ。  二十八歳という若さで社長になったのは、前社長……裕貴の父親が引退したため。  穂鷹出版は、数々の有名な作家を輩出した出版社で、大手と言っても遜色ない規模。  裕貴の父親が会長兼相談役とはいえ、きっと若さ故に大変なこともあるのだろう。   「秘書……。私にできるかな?」 「できるできる! おまえってそういうところは真面目じゃん。それに、安浦(やすうら)先生の小説好きだっただろ? もしかしたら何かの機会に会えるかもよ」  安浦先生!?  名前を聞いただけで、心臓が跳ね上がった。  安浦(やすうら)栄次郎(えいじろう)先生。穂鷹出版で数々のミステリーを生み出した大御所作家だ。  六十八歳という年齢なので、そろそろ引退か、なんて噂も囁かれている。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加